夏の終わり
コンクリートに意思なんてあるわけないのに、
それを作った人には意思があるわけで、
私はコンクリートに話しかけて反射した言葉を聞いている。
何もかもが色褪せて行くと思う?
年を取るたびにわからなくなるな。
古くなって憧れは全部過去に繋がれる。
壊れかけたスピーカーから壊れかけた旋律が流れる。
工場の排煙の焦げ臭い匂いが誰かを安心させる。
不自然な味覚を競い合って盛り付けるレストラン。
都会は身体に悪いものばかりを集めて人を集める。
膨らんで弾けそうな駅のホームに満員列車が注ぎ込まれる。
溢れて流れて流される。
人生は川のようにわかりやすいものだ。
一瞬の隙間に、抜け道を探して解こうと試みる。
時間があとどれ位あるのか考えると怖くなるばかりだ。
雨が降って唐突に夏が終わる。
それまでに見つけ出せるだろうか。
草が枯れるのはずっと後になってからだ。
日差しはそれよりも早く遠のいている。
コンクリートに意味なんてあると思う?
人生に意思なんてあると思う?
同じ道を進んでも同じ場所にはたどり着けない。
それでも同じ道を歩きながら、
私たちは何かを捨てるために何かを捨てる。
身軽になるために自分を捨てる。
(2021年8月25日 詩人の会提出詩、テーマ「夏の終わり」)
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