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【第4回】「ロシア奏法」とは何か
前回の記事
前回紹介したモスクワの4大流派の中で、筆者のバックグラウンドに深く関わりのあるイグムノフの流派について詳しく紹介したいと思う。
イグムノフの代表的な弟子は、ショパンコンクールの初回大会で1位(ちなみにこの時ショスタコーヴィチは6位)となった、レフ・オボーリンや、グネーシン特別音楽学校で教鞭を取りベートーヴェンのソナタ全集も出しているマリア・グリンベルク、言わずと知れた現代の音楽的知性ミハイル・プレトニョフや夫のゲンナジー・ロジェストヴェンスキー(彼はオボーリンの弟子)との夫婦共演で有名なヴィクトリア・ポストニコワの師であるヤコフ・フリエール、そして筆者の恩師イリーナ・エーデルシュタインやスクリャービンの解釈で有名なボリス・ベクテレフの師ヤコブ・ミルシュタインがいる。
なおヤコブ・ミルシュタインは音楽学者であり、それでいてイグムノフの音楽演奏の弟子として、モスクワ音楽院で教鞭を取っていたのである。
ちなみにエーデルシュタインのもう1人の師ボリス・ベルリンはグネーシン特別音楽学校で教えたイグムノフの直弟子のピアノ教師である。
ダヴィッド・オイストラフとレフ・オボーリンのベートーヴェン春
マリア・グリンベルクのベートーヴェン熱情
ゲンナジー・ロジェストヴェンスキーとヴィクトリア・ポストニコワのラフマニノフピアノ協奏曲4番
ヤコフ・フリエールとコンスタンティン・イグムノフ
イリーナ・エーデルシュタインのシューマン幻想曲
ヤコブ・ミルシュタインによるスクリャービンやリスト等の楽譜の校訂
ボリス・ベルリンのマスタークラス
彼らに通底する音楽言語とは何か。それはロマンティズムである。
スヴァトスラフ・リヒテルやエミール・ギレリス等ゲンリヒ・ネイガウスの流派が古典主義を標榜するなら、イグムノフはそれに対置する形で、ロマン主義を徹底する(文献表のエーデルシュタインのプロフィール参照)。
ギレリスとフリエールがコンクール等で良きライバルであったのは有名な話だが、ギレリスが古典的な演奏形式なら、フリエールにはロマン主義的な美の様式が反映されているのである。
ギレリスとフリエールのアルベニスナバーラ
さてここでいう「古典的」とか「ロマン的」とは何を指すのか。
誤解すべきでないのが両者とも楽曲の時代区分を指しているということである。
つまり「古典派的」「ロマン派的」という意味である。では、演奏様式における「古典」や「ロマン」は何か。
要するに一般に古典派に適するとされる演奏方法に重きを置くスタイルと、その逆でロマン派の演奏に適する奏法に重きを置くスタイルの対比なのである。
あるいは、「古典的」な流派が古典派のレパートリーを重視するなら、「ロマン的」な流派はロマン派のレパートリーを重視するのである。
ここで出てくる疑問としては、では、ロマン的な流派は古典派をいかに弾くのか、あるいは古典的な流派はロマン派をいかに弾くのかということである。
この辺は実際に聴いてみてご自身の耳で確認していただきたい。
前者の代表格としてはフリエールのテンペストの録音があり、後者ではギレリスのブラームスの幻想曲中の録音がある。
フリエールのベートーヴェンテンペスト
ギレリスのブラームス幻想曲集
参考文献
イリーナ・エーデルシュタインの公式プロフィール: 「Concerto Grosso Frankfurt」「Künstler」「Irina Edelstein」<https://www.concerto-grosso-frankfurt.de/de/kuenstler/8>
(アクセス日: 2025/1/16)
大野眞嗣『「響き」に革命を起こすロシアピアニズム - 色彩あふれる演奏を目指して』
真嶋雄大『ピアニストの系譜 - その血脈を追う』