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緊急速報、本当に届いている!? フランスの研究が明らかにした驚きの実態

私たちの生活を支えている災害時の緊急速報。地震や大雨など、一刻を争う状況で届く「命綱」と思える存在ですが、今回の研究は、その信頼性を揺るがしかねない事実を突きつけています。

エステバン・ボップ氏、ジョニー・ドゥヴィネ氏らによる論文
“Spatial (in)accuracy of cell broadcast alerts in urban context: Feedback from the April 2023 Cannes tsunami trial”
(Computers, Environment and Urban Systems, 2024年1月号, DOI: https://doi.org/10.1016/j.compenvurbsys.2023.102055)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0198971523001187

参考文献情報

緊急速報への過信は禁物?

フランスのカンヌで2023年4月に行われた津波避難訓練を題材に、研究チームは、携帯電話のエリアメール(Cell Broadcast)の受信状況を調査。その結果、「速報が届くはずの地域にいたにもかかわらず、4割以上が受け取れなかった」という驚きの実態が明らかになったのです。しかも、携帯電話の機種ではなく、通信キャリアによって受信状況に明らかな差があったことも見逃せないポイント。同じ場所なのに大手キャリアの利用者は受信できたが、格安SIMでは受信できなかった、というケースが実際に起こり得るのです。

フランスの緊急速報システムは「FR-Alert」と呼ばれ、2022年6月から運用されています。このシステムは、携帯電話基地局からのエリアメール(Cell Broadcast)技術を利用し、特定の地理的エリアにいる人々の携帯電話へ一斉に緊急情報を配信します。これにより、災害やテロなどの緊急事態発生時に、当局から国民へ迅速かつ直接的な情報伝達を可能にしています。

フランスの緊急速報システムとは

緊急速報に潜む「空間的な不均一性」

今回の研究は「緊急速報の空間的な精度」に着目し、都心部の実験データをもとに実態を明確に示した点が大きな進歩性となっています。この「緊急速報の空間的な精度」には大きく分けて2種類があります。

一つ目は純粋な空間的要因。電波の届き方は、地形や建物の構造、通信キャリアの基地局配置によって左右されます。例えば、高層ビル街では電波が反射や吸収を受け、同じエリア内でも受信状況が大きく異なることがあります。その結果、「速報が届くべきエリアで届かなかった」「対象外エリアで速報が届いた」という事例が多数発生しました。

二つ目は時間経過による変動で、同じ場所にいても、時間帯やネットワーク負荷の変化で受信状況が変わることが確認されています。基地局の混雑や携帯端末の状態(省電力モードなど)が影響し、「最初の速報は受信したが、次の速報は届かなかった」というケースもありました。

「対象外地域なのに届いた」ケースも!?

既述の通り、この研究で注目すべきもう一つの観点としては、「速報の対象ではないはずの地域でも、なぜか受信が確認された」という逆の現象です。システムがないよりは格段に安全性が高まっているものの、今回の研究では、速報の受信率に携帯キャリアごとの違いが見られたことから、キャリア間の連携強化や、より統一された技術基準の策定などの必要性が考えられます。

また、速報が届く範囲のズレについては、基地局の配置や電波の特性などを考慮した、よりきめ細やかなエリア設定が必要となるかも知れませんし、時間的な受信の不安定さに対しては、システムの安定性向上や、より効率的な情報伝達プロトコルの開発が求められます。 そして、私たち自身も、緊急速報だけに頼るのではなく、他の情報伝達手段(防災無線や自治体の情報など)も活用する意識を持つことが重要ではないでしょうか。 今回の研究結果が、今後の緊急速報システムの改善に繋がり、より多くの人々の安全に貢献することを願っています。


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