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東アジアは抜け出せない都市縮退ループに陥るのか?
日本ではすでに「地方はどんどん人が減り、大都市はますます集中する」という現象が進行中。東京圏が国内の人口や経済活動を一手に引き寄せるこの状態を「一極集中」と呼びます。そして実は、同じような兆候は韓国や中国など他の東アジア諸国でも見られるのだとか。
今回ご紹介する論文のタイトルは“Are East Asian “shrinking cities” falling into a loop? Insights from the interplay between population decline and metropolitan concentration in Japan”。筆頭著者はXizi Xuさん。論文は、日本の事例を細かく掘り下げることで、人口減少と大都市集中との間に生まれる“自動増幅”のサイクル――つまり、地方が縮むほど大都市がより成長し、逆にそれが地方衰退をさらに後押しする、という構造を解き明かしています。私自身、「過疎地を活性化しようとしてもなかなか成果が出ない理由がここにあるのでは?」と感じました。では早速、内容を見ていきましょう。
研究の背景と目的
なぜ「人口減少×大都市集中」が問題なのか
東アジアの諸都市は、欧米に比べて移民が少なく「国内人口の自然増減や国内移動」による影響が大きいといわれます。日本の場合、とりわけ東京への集中が顕著で、実際に「東京圏」に人口・大学・企業・税収などが一極的に集まっている状態です。一方、地方部では高齢化が進み、働き手も住民も流出し、空き家や公共施設の維持コストが重くのしかかっている。
論文の筆者らは「人口減少と大都市集中は、単に経済や政策だけで説明できない相互連関を持っているのではないか」という仮説を掲げました。つまり、「地方が衰退する→人が集まらない→さらに投資が減って衰退する」という負の連鎖が都市のライフサイクル後期で強固に成立していると考えられるのです。
どんなデータをどう分析した?
長期的な国勢データ+空間的な統計手法
研究チームは、日本全国の人口データを1975年から2020年までの約45年間にわたり分析しました。ここで着目したのが「空間統計」という手法で、どの地域が「人が増え続ける傾向」を持っているか、逆に「人が大幅に減っている傾向」を示しているかをマッピングしています。
さらに「東京圏の集中度合い」を経済指標(GDPの都市圏シェア)、社会文化指標(大学数の集中度)、人口指標(総人口のうちどれだけ東京圏に住んでいるか)などで数値化。その上で、全国レベルでの人口変動との相関を調べたのです。結果、「全国の人口が減るほど、東京圏の一極集中が強まる」ことが強い負の相関としてはっきり示されたといいます。
わかった主な研究結果
「一極集中」と「縮む地方」が相互に強化される
まず最大の発見は、東京がますます膨張し、地方がしぼんでいく状況が「互いを増幅するループを形成している」ということです。具体的には、地方での人口や産業が弱まると投資が集まらなくなり、さらに人がいなくなる。そして、その分が東京に流れ込んでさらに巨大化し、結果として東京の出生率は低いままでも勢いを維持してしまう――こうした循環が示唆されています。
一方で、東京がこれほど肥大化しても、少子化自体は加速しているため「いつか限界に達してしまうかもしれない」という視点もあります。筆者たちはこれを「メガシティ・パラドックス」と呼び、全体の人口が減る中で都市だけ増え続けるのは長期的に持続不可能だと警鐘を鳴らしています。
注目ポイントと新たな視点
小都市は「都市ライフサイクル理論」から外れ始めている?
従来の「都市のライフサイクル理論」では、都市は成長→郊外化→再都市化…と段階的に発展するとされてきました。ところが日本の地方都市の多くは、その“後半ステージ”に入る前に人口減少が始まり、都市としての成長サイクルをたどらなくなっているそうです。これは、欧米型とは異なる急激な縮小と大都市集中が一体化して進む東アジアの新しい課題と言えそうです。
政策がなかなか効かないのは、そもそも構造問題だから?
地方創生や税制優遇など、地方を支援する数多くの施策が日本では打ち出されてきましたが、東京一極集中は加速こそすれ歯止めがかからない現実があります。論文の結論によると、それは「人口減少と地理的不均衡が深くリンクした構造」のため、限定的な政策だけでは効果が薄いということ。地方単独を応援する施策をやっても、「そもそも人がいない」「都市のほうが利便性と市場規模で勝る」という大きな流れの前には無力に近いのです。筆者たちは「まずは人口減少それ自体をどう捉えるか」という視点が不可欠としています。
まとめと今後の展望
人口減少と大都市集中は別々の話ではなく、深く結びついた“共鳴”現象だというのが、この研究の核心です。ではどうすればいいのか――論文の主張は「一極集中を解消せよ」ではなく、「全体の人口と都市分布を総合的にマネジメントする必要性」を訴えています。東京で生活する低〜中所得層が子育てしやすい仕組みや、地方の人材・投資が完全に吸収されるのを防ぐしくみなど、部分的な政策を超えた“構造的改革”がカギになるとのこと。
東京一極集中の問題は、日本だけではなく、都市化の進んでいる韓国や中国など東アジア諸国にも通じる共通課題です。私たちが抱える人口動態と都市構造の“ループ”に、どう対処していくか。これからの都市政策の大きなヒントを与えてくれる研究と言えるでしょう。
参考情報・ライセンス表記
論文タイトル: “Are East Asian “shrinking cities” falling into a loop? Insights from the interplay between population decline and metropolitan concentration in Japan”
著者: Xizi Xu, Jue Ma, Kojiro Sho, Fumihiko Seta
掲載誌: Cities, Volume 155, December 2024, 105445
この論文はCC BY 4.0ライセンスで公開されています。