アーリースタートアップにおけるミッション・バリューの重要性と策定
はじめに
こんにちは!株式会社ハイヤールー代表葛岡(@kkosukeee)です。
本記事では設立二年、社員規模約10名のスタートアップにおいて、ミッション・バリューがどのくらい大事か、そしてその策定・醸成プロセスをご紹介します。
ミッション・バリューに関してはたくさん記事が公開されていますが、本記事ではスタートアップの特にアーリーフェーズにおいての重要性に関して執筆します。
本記事が少しでもアーリーフェーズのスタートアップ経営者、これからスタートアップを立ち上げようと思っている方のご参考になりますと幸いです。
TL;DR
ハイヤールーは設立二年ちょっとのプロダクトドリブンなエンジニア起業家のスタートアップである
設立直後、創業者のみのフェーズにおいてはミッション・バリューの重要性を感じなかったが、その後事業が波に乗り始めて重要性を再認識
会社経営はワンピースの船旅に似ている。必要なバスの座席を埋めるためには同じ志をもった仲間が必要であるため、改めてミッション・バリューを再定義
心がけたことは、「創業者のDNAを凝縮する」、「誰でも分かる言葉に落とし込む」、「日々口にしやすい表現にする」にすること
そうして出来上がったミッションは「すべてのエンジニアが正当に評価され、個々の力が最大限に発揮できる世界を実装する」、バリューは「Fail Fast(失敗を恐れずに)」、「Aim High(高みを目指せ)」、「Pull Together(みんなで勝つ)」。
策定して終わりではなく、浸透・醸成が大事である。そちらは次回記事を参照👋
背景
我々株式会社ハイヤールーは、設立二年程のスタートアップで、エンジニア採用における採用プロセスに必須のコーディング試験をSaaSとして提供しているスタートアップです。創業者の3人は私含め全員エンジニア出身で、かなりプロダクトドリブンなカルチャーのある少し尖った会社です。
弊社の場合、創業とほぼ同じタイミングで創業者の内々で決めたミッション・バリューらしきもの(以後β版)は存在していたのですが、設立二年を目の前に改めてみんなが納得できるものにしたいということで、再度ミッション・バリューを策定(以後正式版)しました。当時は正社員で8名、業務委託を合わせると20名強というフェーズでした。
初期のミッション・バリューらしきものを決めた際の理由は、大きな課題があったからではなく、投資家含め周りの起業家が大事と言ってるし弊社も作っておくかレベルのものでした。一年ほど会社を経営して分かったのは、創業者のみの会社にはおそらくミッション・バリューは必要ないということでした。
ですがその後事業が立ち上がり始め、顧客が増え、資金調達を実施、気がつけば周りに仲間がどんどん増えました。その中で大きな課題が存在していたわけではないですが、組織としての指揮を上げるため、共通言語のようなものがほしいという動機から正式版の策定に至りました。
ミッション・バリューはなぜ必要か
スタートアップの経営はワンピースでいうところの海賊王を目指し、大海原を海賊の仲間達と一緒に航海するのと同じです。ワンピースと異なるのはスタートアップではユニコーン企業(海賊王)を目指し、大きな市場(大海原)で、会社のメンバー(海賊の仲間)と共に、険しい道程(航海)を超えていくという点です。非常に似ています。
海賊王→ユニコーン企業
大海原→大きな市場
海賊の仲間→会社のメンバー
航海→険しい道程
海賊王を目指す航海の途中には、険しいストームに直面したり、自分より格上のボスと戦ったり何かと大変なものです。スタートアップに例えると、SaaSの不況など険しいストームを乗り越えたり、資本も人材も潤沢な大企業の市場参入で格上のボスとの戦い(差別化)が強いられます。これらの険しい道程を超えて初めて成功を勝ち取れるのです。
ミッションの重要性
険しい道程を超えるためにはチーム全体が結束し、一つの目標に向かって力を合わせる必要があります。そしてその目標になるのがミッションなのです。再びワンピースで例えると、船長であるルフィの「海賊王に俺はなる」という大きな目標に向かって、険しい航海を乗り越えるのです。そんな大きな野望が仲間を魅了し、同じ船に乗る仲間が増えます。「海賊王に俺はなる」という大きな目標がスタートアップのミッションに当たると私は考えます。
ミッションは険しい道程を超えていく中で、コンパスのような役目をします。逆に捉えると、大海原での航海にコンパスなしで挑むのは無茶同然です。そんな仲間との共通認識、目指している世界観を明文化したものがミッションとなり、ミッションなき会社は魂なき会社と同じなのです。
バリューの重要性
ミッション達成に向けた長い道のりの中、価値観が大きくズレる仲間同士ではコンフリクトも絶えないことでしょう。そこで最低限これは大事にしようと、仲間内で共有する価値観がバリューに当たります。再びワンピースで例えると、ルフィーの仲間を大事にする姿勢や、人の夢を笑わない、これらは仲間内で共有している価値観ということが言えます。仮に仲間を大事にしないメンバーが船に乗りたいと言っても、最低限共有する価値観であるバリューに反するため、恐らく同じ船には乗せないことでしょう。
スタートアップの採用においても、ミッションへの共感度合いや、バリューの体現度合いを見ながら慎重に同じ船に乗る仲間を探します。ミッションなき会社は魂なし会社であり、バリューなき会社は規律なき会社になるため、組織を大きくするタイミングでこれらが明確に定まっていないと後に組織崩壊に繋がる可能性があるのです。そのためミッション・バリューは組織づくりを本格化する前のフェーズ、すなわちアーリーフェイズにおいてより重要になることがわかります。
策定プロセス
弊社のミッション・バリューの策定のタイミングは前述の通り、設立二年が経とうとしているタイミングでした。その時点での社員数は8名程度、リファラル中心で採用したメンバー構成となっていました。
会社を立ち上げたのは創業者ですが、その後会社が大きくなるにつれて、創業者の会社からみんなの会社になり、やがて会社は人格を持ちます。法人とは会社法で定められた人格であり、創業者の所有物ではありません。ここでの目的は創業者の思いをミッション・バリューを通して吹き込むことでした。
そんなミッション・バリューの策定に際し、行ったことは以下です:
創業者のDNAを凝縮する
誰でも分かる言葉に落とし込む
日々口にしやすい表現にする
創業者のDNAを凝縮した内容にする
一つ目の創業者のDNAを凝縮した内容にするに関しては、ICCのピッチのnoteの「自分の言葉で話す」部分と同じで、ミッションは特に頻繁に変わるものではないため、妥協して少しでも違和感のある内容だと、仲間に熱い思いを持って伝えることができないと思いました。そのため、創業者に共通する熱い思いを言語化し、まずはミッションを策定しました。
エンジニアはこれからの情報社会、必ず鍵を握る存在であるのに対し、まだまだ正当に評価されていない、そんな現実に私は怒りさえ感じることがありました。エンジニアではなく技術者・作業者と言われ、自社で抱えるのはコストとして見られ、結果としてコアであるプロダクトを外注する、こういった現状は私がこれまで仕事をしてきたDeNAやメルカリでは論外だったのですが、まだまだエンジニアが生み出す価値は軽視されがちです。
そこで我々は主語に「エンジニア」を使い、モノづくりをする人達に対する価値観を変えるという目的を「正当な評価」というメッセージでミッションに取り入れました。このミッションを説明する前には前述のエンジニアの生み出す価値に対する軽視を説明した上、だったら俺たちエンジニアがその価値観を変えてやろうじゃないかというメッセージを社内には伝えています。
誰でも分かる内容にする
このフェーズでは、他社のミッション・バリューを参考にしながら、自社のミッション・バリューを考えました。海外企業はGoogleやMeta、国内ではメルカリやDeNA、加え非常に特徴的であった以前のHONDA(HY戦争最中における)のミッションも参考にしました。
Meta
メルカリ(策定当時)
DeNA
これらから分かる通り、ミッション・バリューを浸透させていくには誰が見ても同じ理解になるようにシンプルでわかり易い言葉で表現されている必要があります。加えミッションは、ある程度抽象化されている方が良いです。例えばGoogleのミッションの一部である「 to organize the world’s information」という部分ですが、Googleはここで検索エンジンで世界中の情報を整理するとは言っていません。検索エンジンはあくまでソリューションであり、Googleが目指している世界における手段でしかないのです。
我々は現在コーディング試験サービスを提供していますが、あくまで成し遂げたい世界は「すべてのエンジニアが正当に評価される世界」であり、コーディング試験サービスはあくまでそれを実現するためのソリューションの一つでしかないのです。ミッションは今展開しているサービスだけでなく、その後どのような世界観を実現したいのかという内容が含まれていることが望ましいです。
心理的安全性という言葉を提唱したエイミー・エドモンドソン著の恐れのない組織にも書かれていますが、共通の敵を持つことでチームが一丸となり、結果として指揮が上がります。HONDAは一時、「ヤマハを潰す」とミッションを掲げ、実際にヤマハとの競争に勝ったそうです。これを参考に、我々はエンジニアが正当に評価されていない社会に対して敵意識を持ち、それを絶対にみんなで変えてやると言う姿勢を持っています。
日々口にしやすい表現にする
ミッション・バリューは策定して終わりではなく、浸透して初めて効果を発揮します。必要以上に長いミッションや、難しい単語を組み合わせたバリューは一見かっこよく見えるかもしれませんが、組織に浸透させる上での障害となります。理想としては社内の至るところで飛び交う、そんな口にしやすい表現であることが非常に大事になります。
メルカリのミッション・バリューは特にこの点が考慮されていることがわかります。メルカリのミッション・バリューは社内の人はもちろん、社外の人でもGo Bold等、耳にしたことのある人は多いのではないでしょうか?回りくどい言い方ではなく、端的に的を得る、難しい単語を使わず中学生で習う英単語レベルからなるバリューは社内の日常のコミュニケーションでも頻繁に飛び交っていました。
我々は大きな目標があり、それを達成する過程で失敗はつきものと考えています。大企業では失敗の確率を極端に減らすことが大事ですが、スタートアップの日々では失敗を恐れていると大胆な挑戦ができません。その背景から、失敗を恐れずに大胆に挑戦し、常に高みを目指しみんなで勝利するという志を会社規模が大きくなっても持ちながら成長するというメッセージを意識しバリューを策定しました。
このように約一ヶ月の時間をかけ、創業者、ボードメンバー、社内メンバー全員を巻き込み、最終的に完成したミッション・バリューは以下となりました:
ミッションに「すべてのエンジニアが正当に評価され、個々の力が最大限に発揮できる世界を実装する」と掲げバリューにはそのミッションを達成するために心がけたい最低限の共通認識で以下の3つを策定しました:
Fail Fast(失敗を恐れずに)
Aim High(高みを目指せ)
Pull Together(みんなで勝つ)
ミッションは前述の通り、エンジニアを主語とし、エンジニアが生み出す価値が正当に評価される世界を実現するというメッセージを、エンジニアがよく使う言葉である「実装」という言葉で置き換えました。共通の敵としてはエンジニアの生み出す価値が軽視される現状であり、我々エンジニアがその現実を変え、その先には日本からビッグテック企業が生まれるというメッセージを社内メンバーには伝えています。
定めた3つのバリューに関しては、英語をデフォルトとして、日本語訳を入れています。これはメルカリ在籍時の経験ですが、日本人でもメルカリのGo Boldというバリューにおいて「大胆に行こう」という人は少ないのですが「Go Boldに行こう」、という表現は日々のコミュニケーションで飛び交っていました。その経験もあり、英語のバリューをネイティブの力を借りて先に定義した後、日本語に逆翻訳しました。
まとめ
最後まで読んでいただきありがとうございます。本記事を通して設立二年ちょっとのフェーズであるスタートアップにとってなぜミッション・バリューが重要か、どのように策定するのかという点が少しでもクリアになれば幸いです。
ジム・コリンズ著のビジョナリー・カンパニーZEROにもある通り、創業者の最も重要な仕事は、バスの重要な座席にふさわしい人材を埋めることです。スタートアップの成功までの道のりは決して甘いものではありません。苦楽を共にする仲間を見つける上でミッション・バリューの策定は創業者が経営者として一番最初に行うべき仕事なのではないでしょうか?
ミッション・バリューは策定して終了ではありません。組織に浸透させ、経営メンバーが口にせずとも、社内で自然とバリューが飛び交うことが理想的です。弊社も策定後すぐにミッション・バリューを浸透させるためのプロセスとして合宿を行ったり、Slackのスタンプを作ったり、社内表彰をしたり様々なトライをしました。カルチャー醸成プロセスに関しては次回の記事で詳細に執筆したいと思います。それでは次回の記事で👋