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顧客接点のデザイン~NR3に向き合うあなたへ~
この記事は「アップ/クロスセルも、プロダクト活用度の向上も、リニューアル管理も、全て一人で責任をもつサクセスマネージャー≒NR3(Net Revenue Retention Rate)に向き合うあなた」に向けて書きました。
はじめまして、小畑(@k0ske)です。
この記事は「カスタマーサクセス Advent Calendar 2019」の13日目になります。
1名のサクセスマネージャー(以下CSM)が売上増加とChurn防止責任を追う体制のチームにおいて、どのように顧客接点を標準化し、メンバーに最適な行動をとってもらうかについて1つのケースとして紹介できればと思います。
前提として、freeeの中でも私が置かれているマーケットの特性を紹介します。
・freeeはクラウド会計ソフト、勤怠給与計算ソフト、税務申告ソフトおよびそれらの付随サービスを提供している会社
・私(小畑)の事業部ではエンドユーザーではなく、プロである士業(会計事務所、税理士法人)に対してfreeeのプロダクト&サービスを提供している
・士業は複数のベンダーを併用するのが前提(一気に買わない)
・士業に対し、freeeが提供できる商材は10コ以上存在する
つまり、私が向き合っているマーケットは「初回獲得単価は低いものの、アップ/クロスセル機会が多い一方で、部分解約も起こりやすい」マーケットと言えます。
ツールは主にSalesforceを使っています。
0.なぜ顧客接点を標準化する必要があったのか
まず、当時の課題から説明します。
freeeには、2016年くらいからカスタマーサクセスという言葉は存在していました。当日のCSMに求められていることは、①セールスが獲得した顧客のfreee習熟度を上げること、②顧客から追加受注を取ることの主に2つでした。
2017年くらいから顧客の契約状況やプロダクトの活用状況が一部Salesforceに連携されるようになっていましたが、まだCSM自体にそのデータをつかった行動変容が起きておらず、NR3が伸び悩みました。
課題の中から、特に下記3つが重要と認識していました。
①onboarding(初回契約から3ヶ月)~契約更新までの顧客の状態をモニタリングする仕組みがない。
②アップセル/クロスセルした商材についてonboardingが提供できていない。
③いつ、どこに対してアップセル/クロスセル商談をするか、CSMの判断に委ねられている。
Churnは遅効指標です。活用状況を見てからのアクションでは手遅れになる場合も多いため、獲得~定着~更新までの顧客接点を定義/モニタリングすることにしました。
1,リニューアルマネジメント
まず、やったことはリニューアル商談の導入とその運用ルールの策定です。各CSMには更新直前ではなく、そのずっと前から顧客接点を持ってもらう必要がありました。
Salesforceの”商談”(獲得商談)がクローズすると、自動で契約開始日の1年後を完了日とする”リニューアル商談”を作成しました。担当のCSM(リニューアル責任者)を所有者とすることで、いつもみているダッシュボードで更新日、契約金額、更新予定額、予想Churn金額が全件可視化されます。
リニューアル商談のフェーズを下記のように定義し、このフェーズを達成していない案件は”行動ダッシュボード”(Call to action)に上がってくるようにしました。
更新前120以内/フェーズ1:プランニング完了(行動計画、予想更新金額等が入力されていること)
更新前90日以内/フェーズ2:更新関連のアポイントメントが取得できていること。
更新前60日以内/フェーズ3~5:顧客に接触後、更新確度が入力されていること。(確度によって3<4<5に分ける。)
更新前30日以内/フェーズ6:更新内容で契約書の締結が完了しているor自動更新処理が完了
こんな感じです。定例MTGでは、行動ダッシュボードに案件が毎回上がってきているCSM担当者は指摘されつづけるので、2ヶ月もすれば30日前に決着がついていない案件は発生しなくなります。
2,カスタムオブジェクトでonboardingを管理
続いてonbaordingです。ここでの問題意識は「アップ/クロスセル商材に対するonboardingが提供できていない」ということでした。
なぜ提供できていないかについては、2つの課題がありました。
①各商材ごとの"onboarding完了"定義が明確ではなかった。
②KPIをChurnにおいたため、手前の”onboarding完了”が重視されていなかった。
そこで、商材1つ1つに対し、シンプルな1つのヘルススコアで”onboarding完了”を定義し、中間KPIとして「onboarding成功数(成功率)」を設定、トラッキングを開始しました。はじめは複数のスコアで見ようとしたのですが、見る指標が多いとうまくいきませんでした。
ちなみに今はonboarding成功率のみに責任をもつonboardingチームを独立して立ち上げています。
上記を可視化するために、Salesforceのカスタムオブジェクトを作成しました。このカスタムオブジェクトを”プロジェクト”と呼んでいます。
”プロジェクト”は獲得商談がクローズすると自動で作成され、カスタマーサクセス担当者(≒onboarding担当者)が所有者となります。
”プロジェクト”にはデフォルトで”プロジェクトタスク”が紐付いており、このタスクをCSMが遂行していきます。
また、契約開始から3ヶ月を経過しても”onboarding完了”しない場合、プロジェクトのフェーズは自動で”失敗”となります。定例MTGでは失敗したプロジェクトに対し、原因と今後のアクションプランを話します。
このようにすることで、アップ/クロスセル商材に対してのアクションが標準化されていきます。
3.onboarding後の顧客接点について
onboarding後をadoption(定着)フェーズと呼んでいます。
ここでも、”定着”をシンプルな1つのヘルススコアで定義していきます。定義は、「これを達成すれば、アップ/クロスセル提案ができる状態か」を考えながら決めます。
adoptionについても先程登場した”プロジェクト”を使います。獲得商談がクローズすると、自動でadoptionのプロジェクトも作成されています。期限(契約から9ヶ月)を過ぎると自動で失敗になる点も同じですが、デフォルトで作成されているプロジェクトタスクの使い方が違います。adoptionでは、「サクセスマネージャーが何をするか」ではなく、「顧客がどういう状態を達成したか≒マイルストン」を入れており、それを達成しにいきます。マイルストンは思考錯誤で色々変更していますが、「NPSが〇〇以上、成功事例の作成と顧客内他部署の完了」といった内容です。
こうすることで、「onboarding完了後~契約更新まで顧客の状況をモニタリングしない」という状況が解消されていきます。
4.アップ/クロスセルは顧客カルテとターゲット商談で顧客接点を定義
上記3まででonboarding~契約更新までの顧客接点がデザインされていきましたが、”NR3に向き合うあなた”にはセールスの責任があります。
CSMにセールスの責任を課す場合、どこに何をいつ提案するのか、他業務と並行してプラニングするのは難易度が高いです。
そのため、どこに何を提案するのかを定義することにしました。
どこに何をいつ提案すべきかは下記3つの情報から決めていきます。
①顧客の情報(従業員規模、現在の契約状況等)
②活用スコア
③シーズナリティ
③は業種業態によって状況が異なるので割愛します。
”顧客カルテ”というカスタムオブジェクトを作成し、そこに①と②のデータが連携することによって、「ビジネスポテンシャルに対し、現状の契約内容とのギャップはなにか」を一覧化します。単純に連携するというよりもレポートで出力した際にひと目でどこに何を提案できるのか分かる状態になることが大事です。
一覧化された商材について、四半期(または月)のプラニングMTGにて、事業計画と”定着”有無、サクセス担当者の定性的な判断を元にどこに対して何を提案するのかを確定させていきます。
確定した提案計画を”商談”としてSalesforceに一括作成し、フェーズ管理をしていきます。これをターゲット商談と呼んでいます。
こうすることで、どこに何を提案していくかを期首時点から明確にした状態で走り出すことができます。
最後に
「カスタマーサクセス Advent Calendar 2019」の機会に、まだカスタマーサクセスの活動を分業していないフェーズの方向けに書かせていただきました。
今回はCSMのオペレーションについて記載しましたが、KPIを変え、売り方や商材を変え、マネジメントもセットで変えていって初めて結果は数字に表れると実感しました。
私が対峙するマーケットはかなり特殊だと思っているのですが、NR3に向きあうサクセスの方々の参考になればと思います!
「うちも同じような特性のマーケットだよ」という方いらっしゃればぜひご連絡ください。
ありがとうございました!
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副業でカスタマーサクセスのコンサルティングやアドバイス、OKRの導入アドバイス、freeeの運用設計支援などをおこなっています。
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