「クレジットカード」より「国際ブランドカード」が適切なのでは?
はじめに
日本のキャッシュレス決済市場は、世界的に見ても複雑な進化を遂げてきました。
日本で総称される「クレジットカード」とは、VisaやMastercardといった国際ブランドが認可した後払い式の支払方法を指します。
国内では「クレジットカード券面にあるロゴ」として認識されている国際ブランド。実はデビット(即時払い式)やプリペイド(前払い式)カードの普及にも深く関わっています。
筆者は決済会社に勤務していますが、数年前までは国際ブランドをほとんど意識したことがなく、例えば「デビットカード」と「J-Debit」の違いを理解していませんでした (´・‿・`)
さらに学生時代には、以下のような違和感を覚えながらお店でカードを使っていました。
支払方法を申告していないのに、どうしてお店のレジ担当は当たり前のように一括払いで決済するのか?
クレジットカード会社は、デビットやプリペイドカードも発行することはできるのか?
国際ブランドは、自らクレジットカードを発行することはできるのか?
本記事では日本国内におけるクレジットカードの歴史を紐解きながら、我々消費者が「クレジットの一括払い」で決済する商慣習がある背景を探ってみたいと思います。
クレジットカードの位置付け
先ずは主要キャッシュレス決済サービスを振り返り、全体における「クレジットカード」のポジションを確認してみましょう。
主要国際ブランドとして、世界中で認知されているのは全部で7ブランドです。世界取扱高(年間の決済総額)順に並べると以下の通りになります。
■UnionPay(銀聯)
>設立 :2002年
>本社 :中国上海市(日本支社:東京都港区)
>参考ウェブサイト :https://www.unionpayintl.com/jp/
■Visa(ビザ)
>設立 :1958年
>本社 :米国カリフォルニア州(日本支社:東京都千代田区)
>参考ウェブサイト :https://www.visa.co.jp/
■Mastercard(マスターカード)
>設立 :1966年
>本社 :米国ニューヨーク州(日本支社:東京都渋谷区)
>参考ウェブサイト :https://www.mastercard.co.jp/ja-jp.html
■American Express(アメリカンエキスプレス)
>設立 :1850年
>本社 :米国ニューヨーク州(日本支社:東京都港区)
>参考ウェブサイト :https://www.americanexpress.com/ja-jp/
■JCB(ジェーシービー)
>設立 :1961年
>本社 :東京都港区
>参考ウェブサイト :https://www.jcb.co.jp/
■Diners Club(ダイナースクラブ)
>設立 :1950年
>本社 :米国イリノイ州(日本支社:東京都中央区)
>参考ウェブサイト :https://www.diners.co.jp/ja/index.html
■Discover(ディスカバー)
>設立 :1985年
>本社 :米国イリノイ州
>参考ウェブサイト :https://www.discover.com/
この中で、自らクレジットカードの発行も行っているのはAmerican ExpressとJCBです。
日本唯一の国際ブランドであるJCBは1961年に誕生しました。2021年はなんと創業60周年です!
国際ブランドのサービス提供範囲
キャッシュレス決済サービスを受け付けているお店は、入口付近の扉やレジ周辺にステッカーを貼って告知しています。
我々消費者は、会計時にこのステッカーを確認し、どの決済サービスが使えるのかを判断しています。
すでにお気づきの方もいると思いますが、国際ブランドのステッカーが貼られているお店ではクレジットカードに限らず、当然デビットカードやプリペイドカードでのお支払いもできます。
にも拘らず、レジ周辺に貼ってある一部ステッカーには、「クレジットカード使えます」や「クレジットカードがご利用いただけます」と書いてありますよね。
デビットやプリペイドカードを取り扱うインフラが整っているのに、「クレジットカードしか使えないのか」と我々消費者をミスリードしているように個人的に感じています。
余談ですが、日本と同様に海外でもクレジットカードは汎用的な決済サービスとして主流です。
しかし日本と異なり、デビットやプリペイドカードも幅広く活用されているのはご存知でしょうか。特にプリペイドカードは、行政による市民への災害支援や生活保護といった公的給付として利活用されています。
クレジットカードの歴史
日本でクレジットカードが導入されたのは1960年代のことです。
1960年代当初、銀行はクレジットカードの発行に前向きでした。銀行口座にお金を預けたまま買い物できるメリットは、銀行にとって新たなビジネスチャンスだったからです。
米国では、銀行が自らイシュイング(カード発行業務)、およびアクワイアリング(加盟店契約業務)を行うのが一般的です。
ところが日本政府は、大規模な資産を持つ銀行が貸金業に進出することで、中小企業の資金繰りを圧迫するリスクを懸念していました。その結果、当時の銀行法は兼業を規制します。
銀行は預金業務や融資など、本業以外の周辺ビジネスを展開できませんでした。カード関連業務を展開できない銀行本体は、新たに子会社を設立する形でカード事業の発展を余儀なくされます。
1982年に大きな転機が訪れます。銀行法の改正により、銀行本体によるクレジットカードの発行が付帯業務としてようやく可能となりました。
同じ頃には、銀行本体とその子会社が国際ブランドとの提携を開始します。さらには1990年代の「金融ビッグバン」も後押しし、我々消費者の生活にクレジットカードは身近なものとなりました。
2021年現在、3大メガバンクの子会社(銀行系クレジットカード会社)として日本のキャッシュレス化を推進しているのは以下3社です。
■株式会社三菱UFJフィナンシャルグループ
>カード子会社 :三菱UFJニコス株式会社
>参考ウェブサイト :https://www.cr.mufg.jp/
■株式会社三井住友フィナンシャルグループ
>カード子会社 :三井住友カード株式会社
>参考ウェブサイト :https://www.smbc-card.com/index.jsp
■株式会社みずほ銀行
>カード子会社 :ユーシーカード株式会社
>参考ウェブサイト :https://www2.uccard.co.jp/
クレジットカードの支払方法
クレジットカードの支払方法でも、日本は独自の展開を遂げました。支払方法についても図解で簡単に解説します。
米国ではカードを使う際、支払方法を店員に申し出る商慣習があります。筆者自身も、現地で店員から真っ先に「Credit or Debit?」と尋ねられたことを鮮明に覚えています。
日本では言うまでもなく「クレジットの一括払い」が主流ですが、店員の対応がバラバラに感じる方は多いのではないでしょうか。
クレジットカードを渡した後、
①「ご一括でよろしいですか?」と丁寧に尋ねる店員
②「一括で承ります」と支払方法を決める店員
③何も意思確認せずに、決済端末にカードを差し込む店員
②③のパターンが多いと、我々消費者も支払方法を申し出る意識が薄れてしまいますよね、、
この日本ならではの異様な会計シーンは、割賦販売法というまた別の法律が背景にあります。
割賦販売法は当初、一括払い以外の支払方法の提供を禁じていました。銀行が子会社として立ち上げたカード会社ですら、リボルビング払いや分割払いの認可が得られませんでした。
リボルビング払いの取り扱いが解禁されたのは1992年。分割払いについては、さらに9年後の2001年でした。この結果、初期段階で「クレジットカード=一括払い」の認識が植え付けられてしまったのです。
2021年現在のキャッシュレス関連法制の全体図は以下となります。先ほど紹介した銀行法は金融庁、割賦販売法は経済産業省が監督官庁の位置付けです。
最後に
新銀行法の施行や国際ブランドとの提携が進んだ一方、「クレジットの一括払い」で決済する商慣習が今もなお根強く残っている要因を解説してみました。
果たして今後、我々消費者の金融リテラシーの向上によって意識改革は進むのでしょうか。個人的にプチ感動した出来事が最近あったので紹介したいと思います。
(出所)三井住友カード、オールインワン決済端末「stera terminal」を設置開始!
https://www.smbc-card.com/company/news/news0001530.jsp
三井住友カードが決済端末stera terminalを昨年リリースしました。三井住友カードが公表したサービス取り扱いラインナップ図の左上部分にご注目ください。
小さな事例ですが、カード会社がキャッシュレス時代の消費者を正しく育成する大きな一歩だと個人的に感じました。次回記事はレシートの応用編についてです。お楽しみに!