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どうなる? ソフトバンク捕手事情


予想されたFA

昨年12月17日に福岡ソフトバンクホークスからFA宣言をしていた甲斐拓也捕手の巨人移籍が決定しました。推定4年総額15億円の契約金に阿部監督が背負った背番号10を用意する高待遇、媒体によっては5年20億円との報道もありました。
FA宣言した際は「やっぱりな…」と、昨季複数年を断って単年契約を結んだ時点でなんとなく予想していましたが、実際に巨人移籍が決まった時は驚きが勝ちました。ソフトバンクとのマネーゲームに勝てるのか、そもそも大城が残留した巨人で巨額の投資をしてまで甲斐を獲得するメリットがどこまであるのか?というのが疑問だったからです。

復活の甲斐

2017年に正捕手として定着し、8年間その座を守り抜いた甲斐でしたが、2019に打率.260、11HR、当時のキャリアハイとなるwRC+111を記録して以降は打撃不振に苦しみます。2021年から2023年までの3年間はいずれもwRC+が100を下回り、特に2022年は打率.180、1HR、wRC+58と大きく苦しみました。
自慢の守備では、盗塁阻止率や盗塁抑止力でこそリーグ上位の数値を残しましたが、フレーミングでは毎年のように大きなマイナスを記録し、総合的な守備力はむしろ平均以下の捕手との評価が下されたこともありました。


しかし2023シーズンより、自主トレにキャッチャーコーチである緑川大陸氏を自主トレのパートナーとして招き、積極的にフレーミング技術の向上に取り組みます。すると、それまで大幅なマイナスを叩き出していたフレーミングの数値が改善すると、今季はついにリーグでも上位のプラスを稼ぎ出すまで改善し、わずか2年で弱点を強みに変えていきました。

打撃に関しても今季は2019年以来となる打率.250以上でフィニッシュ。HR数こそ前年の半分となる5本に終わりましたが、出塁率は5分、長打率も4分向上させるなど総合的な打撃力は改善し、wRC+はキャリアハイの112を記録し、総合的な評価であるWARは2019年に次ぐ数値を残しました。

FA捕手戦国時代

まさにFAイヤーにふさわしい、自身を高く売り込むには十二分な成績を残してFA戦線に出ていった甲斐でしたが、昨オフのFA市場において特に捕手事情はかつてないほどビックネームが揃っていました。
甲斐に加えて、大城(巨人)、坂本(阪神)、木下(中日)と各球団で正捕手を務めた実力者がFA権を有しており、特にこの年に第3捕手となり、一塁手としての起用が増えた大城の流出は確実視されていました。

大城は貴重な打撃での貢献度が高い捕手であり、甲斐の不振で弱点となった捕手の補強ではピンズドでした。また大城は甲斐と違い、一塁手のオプションもある、フレーミングの数値も優秀で攻守ともに貢献できる可能性が高いこと、2023年時点で甲斐よりも年俸が低く抑えられることも魅力でした。
事実、甲斐の流出を見込んでからか、ソフトバンクは5年目の海野隆司を2番手捕手として積極的に起用し、それまでUTとして起用していた谷川原を捕手1本化させるなど、甲斐の退団に備えた動きを見せました。

この大城獲得戦線への出馬は甲斐の流出に拍車をかけ、それに伴い球界内では捕手の玉突き移籍が起こるのではないか、との報道も多くされました。

しかし蓋を開けてみると、大城はFA宣言すらせず、巨人と1.3億円の複数年契約で合意。争奪戦必須の捕手が市場に出なくなったことで、この流れは一気に沈静化。
坂本も宣言を行わず、木下は宣言こそしたものの残留を決めたことで、捕手の玉突き移籍は起こらず。
唯一移籍先の決まらない甲斐に対してソフトバンクと巨人の一騎打ちという構図になりましたが、昨季ブレイクの岸田に加えて大城も残留、有望株の山瀬に出番を与えたいはずの巨人が甲斐獲得にどこまで本気を出すのか?
逆に2番手捕手の育成に苦慮しているソフトバンクとしては一転、甲斐残留へと舵を切らなければなりませんでした。

大方の予想では、捕手の戦力を維持できた巨人にベテランの甲斐を、しかも巨額の資金を投じてまで獲得することはない、甲斐としても巨人に移籍したとして出番の大幅増には繋がらないし、年俸を釣り上げることに成功したので、なんだかんだソフトバンク残留となるのではないか、というものでした。

しかし甲斐の下した決断は巨人への移籍でした。

球界の捕手事情

球界全体で見ても攻守ともに、甲斐成績は素晴らしいものでした。
甲斐の残したWAR2.9は山本佑大(De)に次ぐ2番目の数字でした。攻撃では山本、坂倉(広)に続いて3番目のwRC+112を記録し、守備でも改善されたフレーミングに加え、自慢の捕逸阻止能力は平均以上、しかもそれを球界1のイニング数を守りながら両立しました。
また甲斐は20シーズンから5年連続で捕手として12球団で最多の試合出場数を記録しており、捕手という過酷なポジションをこなしながら、耐久性が高いことも魅力です。

捕手の総合力で見れば、山本が現在の球界No.1捕手の評価となるでしょうし、守備では中村悠平(ヤ)、打撃では坂倉(なお捕手としての出場は最少)になります。
しかし球団として捕手事情で言えば、平均以上のレギュラーとなった岸田に、打撃の大城、高い総合力と耐久性を持つ甲斐を揃えた巨人が頭ひとつ抜け出した格好でしょう。

ソフトバンク捕手事情

そして問題は2025シーズンのソフトバンクの正捕手は誰になるのか?という点です。小久保監督は海野や谷川原、嶺井といった名前を挙げています。
支配下では6人の捕手を抱えているソフトバンク、それぞれの特徴等を踏まえその陣容を確認しましょう。

海野隆司

2024年(1軍)
51G Ave.173, 2HR, OPS .504, BB 5.0%, K 25.0%, OBP .255, SLG .279
第2捕手として臨んだ昨シーズンはキャリアハイの51試合、120打席の出番を得るこおができました。しかし相変わらず打撃がネックで打率はわずかに.173wRC+も43と低調な成績に終わり、期待された守備でもフレーミング指標がマイナスに転じるなど、攻守ともに奮いませんでした。しかし、盗塁阻止率はそこそこの数字を残し、捕逸回避でもマイナスは作らず、フレーミングさえ復活すれば守備面での目処は立ちそうです。
また小久保監督は後半戦の打撃を評価していました。シーズン終盤になればなるほど、海野の出番は減少しましたが、9月は少ない出番ながら、10打数で3安打、そのうち2塁打が2本と長打を示しながら、三振は0と課題だったコンタクト面に改善の兆しが見えます、また打球性質も9割がフライと明らかに打球を上げることを意識しており、この傾向が今季も見られれば数字は多少持ち直すかと思います。

谷川原健太

2024年(1軍)
4G Ave.444, 0HR, OPS .1.278, BB 0%, K 20.0%, OBP .500, SLG .778
2024年(2軍)
74G Ave.258, 0HR, OPS .651, BB 7.4%, K 12.1%, OBP .316, SLG .355
スーパーユーティリティから捕手一本で勝負をかけた昨季。ファームでは最多のイニングでマスクを被り、捕手としての実戦経験を積むことに。海野が全く打てなかった夏場に昇格を望む声もありましたが、結局9月までずれ込むことに。昇格後も骨折で離脱するなど不運な面もあ李ました、僅かな出番でもヒットを量産し、センセーショナルな活躍を残しました。プロ年数も10年目を迎えるが、実は不安なのは体力面。9月のファーム成績は41打数4安打、打率は.098と目を疑う数字に。これでよく1軍で結果を残したかと思いますが、やはり海野らとの併用は必須になるかと。

嶺井博希

2024年(1軍)
4G Ave.500, 1HR, OPS .1.500, BB 0%, K 16.7%, OBP .500, SLG 1.000
2024年(2軍)
69G Ave.298, 2HR, OPS .783, BB 6.8%, K 10.9%, OBP .359, SLG .405
2番手捕手の筆頭と目されるも、捕手2人体制の1軍には6月まで呼ばれず。古巣対戦となったDeNA戦では本塁打を放つなど打撃で結果を残すも、その後は2軍暮らしが続き、プロ入り後最小の4試合の出場に。ファームでも打撃が好調だっただけに、今季も攻撃力で引き続き違いを見せることができれば、貴重なベテラン捕手としても徴用される可能性があります。

渡邉陸

2024年(2軍)
57G Ave.201, 2HR, OPS .534, BB 5.8%, K 12.2%, OBP .253, SLG .281
衝撃の2022年以来1軍の舞台から遠ざかってており、昨季も呼ばれることはありませんでした。持ち前の打撃が鳴りをひそめ、打率は僅かに2割を超える程度。三振率はこれまでの20%を大きく下回る12.2%とコンタクトに改善が見られるも、ハードヒット率は年々低下しており、コンタクトを気にするあまり、思い切りの良い打撃ができなかった可能性があります。また今まで得意だったストレートに対して今季は全く結果を残せず、140キロ以上の半速球でさえヒットを放つことができませんでした。守備でもフレーミング、ブロッキング共に低調なパフォーマンスに終始。まだ実は24歳と若いですが、怪我も多く耐久面にも不安があるため、打撃を無駄にしないためには、いよいよコンバートもありなのか?(21年以来守っていない)とは勝手に思っています。

牧原巧汰

2024年(2軍)
27G Ave.240, 0HR, OPS .665, BB 10.3%, K 24.1%, OBP .345, SLG .320
3軍では打率.280と捕手としては高い攻撃力を見せ、ファームでも過去最高の成績を残し、着実な成長を見せています。年々強い打球を打てる、フライを上げることができるようになってきており、今季こそは初の1軍出場を果たしたいシーズンとなります。ただ左打ちの捕手は谷川原、渡邉とすでに人数がおり、かつ2人とも牧原と同様に打撃を期待されている選手たちなので、まずはそことの競争に勝つことが重要な点となります。

藤田悠太郎

2024年(2軍)
2G Ave.333, 0HR, OPS .667, BB 0%, K 0%, OBP .333, SLG .333
ルーキーイヤーの昨季は3,4軍が主戦場。打率.232と及第点の成績で、6盗塁と足の速さも見せつけ、数少ない2軍戦でも初ヒットを放つなど期待は膨らむ1年目となりました。来季も主戦場は3軍戦になることが予想されますが、じっくりと育てていく予定かと思われます。

ドラフト・新戦力事情

あと気になるのは今年のドラフトです。年齢のゾーン的には大・社卒ラインである渡邉、牧原が思ったように出てこない現状を鑑みて大卒捕手の獲得はあるかも?しれません。昨オフドラフトでは捕手の指名は僅か1名でしたが、指名されたのは茨城アストロプラネッツ所属の大友宗。日本通運でのプレー経験もあり、育成とはいえ実力は折り紙付きであり、球団としても早期の支配下登録、戦力化を期待しているでしょう。(とはいえ育成3巡目までスリップしてきたので過度な期待は禁物
ドラフト候補のアマ選手には疎いのですが、評判が良いのは大学生だと小島(明治大学)、有馬(エネオス)ら。このまま現戦力が結果を残すことができなければ、ドラフトでの指名は一つの手だと思います。
またFA戦線に目を向けると坂倉(広島)が26年オフに市場に出てきます。打撃で大きな貢献が見込める一方、捕手一本での出場ができない、難しい可能性もあるところがネックですが、個人的には狙って欲しいところです。

今まで良くも悪くも聖域だった甲斐が流出したことで、発生した正捕手競争。誰が勝ち抜くのか、その答えはまた1年後となりますが、久々のレギュラー争いを暖かく、厳しく見届けたいものです。

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