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小さい頃から変な感覚があった。「早送りする世界があるって言ったら信じる?」

小さい頃から変な感覚があった。
自分の感情も、周りの動きも喋りも、全てが早送りされているようなそんな感覚。

時計の針がチクチク早く聞こえる。
けどよくよくじっくり見ると時計の針は普通に動いてる。

母が何か喋ってる。
けど早口のように聞こえて耳にぜんぜん入ってこない。
よくよく聞くと早口で喋ってるわけでもないと感じながらも、早口のように聞こえる。

ふと我に返ると時間が戻ってきて、
「さっきなんて言ってたの?」
そんなことがあった。


自分だけ、どこか別の世界にいるような感覚があった。
突然あらわれて5分くらいしたら、また突然元の世界に戻された。


あ、またきた。
そう思ったら全てが早送りされる。
どうしようもない。


けど、小さい頃はこんな変な現象を誰かに説明できなかった。

「さっき早送りされてたんだけどさ…」
こんなこと言ったら、
「こいつとうとうおかしくなったよ」
って思われるだろうと思ったし、

「世の中の多くの人がこういう現象にきっとなってるのだろう」
「これが普通なのかもしれない」
そう思っていた。

けど、どうも違うらしい。


たまに電車のSuicaの音の「ぴっ、ぴっ、ぴっ」がうるさく感じる。
通行人の足の音、電車の音、電子掲示板の文字、路上にあるテレビ。
全ての音や動きの情報が耳や目に入ってきてしまってパニックになる。
そうなると歩くのが気持ち悪くなって、道端に座って立てなくなる時がある。

「立てない」
「足が痛いんだ」
そんなことを言っても、
「怪我でもしたの?」
と言われる。

そういうことじゃないんだ。
そういうことじゃない。

歩けないのに、歩けと言われ、
足の気持ち悪さを抱えたまま、
泣きながら学校に行った記憶。
泣きながら自転車を漕いだ記憶。

行かなきゃいけない、頭ではわかってる、
けれど行けなかった、たどり着けなかった。
学校にたどり着くのに、どれほどの時間をかけたのか。
家にたどり着くのに、いったいどれほどの時間がかかったのか。

歩くことすらできない自分に嫌気がさした。
「歩けない」
その一言が言えなかった。

どうしようもならない気持ちを吐き出す場所が分からなくて、
教科書や本を投げてたな、携帯も投げた、椅子も投げちゃった。

そしたら母に「携帯は投げるな」と怒られた。
本当に部屋にあったありとあらゆるものを投げていた私を、
きっとうんざりしながらも心配そうに見ていた母がついに怒ったのは、
携帯を投げた時だった。
その時しか怒らなかった母は相当寛容な人間だとは思う。

結局その携帯もイスも壊れた。
投げたら壊れるの当たり前か。
そんなことは分かってた。
投げたくて投げたわけじゃない。


こんなことを書きながらもなにを伝えたかったんだろう。
よく分からないな。
「なにかあったの?元気ないの?」
と思われるかもしれないけど、
いたって今日も平凡で幸せな1日なんだと思う。

ただそんな過去があった。
うん、そんな時もある。

人間そんな強くない。私もそんなに強くない。
生きるのって難しい。難しいと思う。
けど生きていたいと思うので、
今日も私はひっそり生きてます。

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木原葵
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