追悼岡康道第二弾「人生2割がちょうどいい」...他人の同窓会覗きは止められない
9月6日に公開した「小田嶋隆の本を三冊読んで「中二病」について考えた」に続いて、今年の7月31日に急逝された岡康道と小田嶋隆の対談本「人生2割がちょうどいい」を読んだ。
先のnoteで「いつだって僕は途上にいる」について「他人の同窓会での会話を横で聴いているような気持ちになる」と書いたが、こちらの対談は輪にかけて学生時代を初めとする彼らの「人生の諸問題」の面白話がさく裂している。
人生の諸問題がてんこもり
実際、彼ら自身ほど諸問題を抱えて来た人たちはなかなかいない、と思わせる。停学、補導、浪人、会社不適応、一流企業を退社、年収100万円、アル中、ワーカホリック、離婚、ひきこもり...とてんこ盛りだ。
そしてそれぞれの細かいエピソードがそれぞれ面白い。
少々ネタバレになるが、例えば、
・わざわざ数名で受験しに行った北大の英語の試験でスージーおばさんの話が出たが、岡さんはアーントというのがアリ(アント)だと思っていたので「あのアリの話だけどさ」と小田嶋さんに言ったら即座に「お前、落ちたよ」と言われた。
・スピード違反で家裁送りとなった小田嶋さんが、保護者の役を同じクラスのちょっと老けた顔のやつに着流し姿で代役させた。当然バレて大問題。
・何度かの麻雀での勝ちを積み重ね、岡さんが小田嶋さんのボロボロのスカGをせしめて、その後二年間乗ったが、最後は床がボロボロになって雨の日は足元がぐちょぐちょになるので、あるガソリンスタンドで「いい車ですね」と言われたので車をあげた。
なんていう話だ。
人生はローラーコースター
その岡さんは大学一年時にお父様の事業が失敗して目に見えて生活水準が落ち、小田嶋さんの家に食事を食べさせてもらう生活が続いた。なんせ大学に入学した時は、ホテルオークラで、入学祝いのパーティを開いてもらったのに、その秋には自己破産という金持ち貧乏ジェットコースター状態だ。
当時を振り返って岡さんは「毎日がツースリー」でしびれた、と振り返る。
一方、小田嶋さんは食品会社に入って、入社4日目で足を折って、入院して、4ケ月休んで、それから4ケ月ぐらい会社に出て辞めている。その会社で宴会があって、カラオケで賛美歌を歌った部長に対抗して、「君が代」を全員起立を条件に歌おうとして、その部長が立たないので、「一名、お願いしてもご起立されていない方がいらっしゃるんですが、ぜひお願いいたします」とからんだという逸話がある。そりゃ会社生活が長持ちするはずもない。
小田嶋さんが30歳代はアル中だった話は、「上を向いてアルコール」に詳しいのでその修羅場体験はそちらを読んでいただきたい。岡さんは入社後5年間電通で伝説の「ホタル」営業を経験して絶望し、クリエイティブの転局試験に合格して30歳代は遅れた新入社員としてワーカホリックとなり、家庭を顧みない生活から離婚と息子の高校中退を経験する。
職業に夢を持たせてはダメ
そういう人生の諸問題を経て来た二人が職業を語るところも面白い。特に小田嶋さんは会社生活を早々ドロップアウトして親がかかりで30歳まではブラブラして結果としてコラムニストになった人だ。
そもそも「誰しも100%適応する場所」など無いのに、自分探しの旅に出たがる風潮を嘆く。職業は食うためにあるのであって、楽しく自己実現できる職業なんてあるのか、と職業のやりがいを否定。岡さんはそれに「職業で金を稼いで、その金で(夢を)実現しよう」とか思わないのかね、と同調する。
小田嶋さんは村上龍の「13歳のハローワーク」について辛らつだ。いかにいい給料をもらっていようと、組織にぶら下がっているやつは負け犬だよ、という感覚で、あの本は「みんな、村上龍みたいになりたいだろう」としか読めない、と切り捨てる。やってみたら結構楽しいという職業だってあるはずだし、職業なんて面白くないと分かっているが食うために就職したので簡単には辞めない、となる。
この点日頃キャリアオーナーシップとかエンゲージメントとか偉そうな理想を言っている自分が恥ずかしくなる。
「プロジェクトX」については、結局偉くならなかったサラリーマンの話で、泣いちゃうんだけど、この役は嫌だ、となる。岡さんの息子は岡さんが涙ぐんでいる脇で席を立ったそうだ。サラリーマンは偉くならないと「自由」=「権力」が手に入らない、のが現実だ。
「職業は夢ではなくて、未来の現実」、というナビゲーターの清野さんの指摘が重い。
「リーダー」に求めること
リーダーシップについても集団論理になじまない二人の考え方ははっきりしいている。
小田嶋さんが松下政経塾の関係の人たちの本をたくさん読んでわかったのは、彼らは人間をリーダーである人間とフォロワーである人間の2通りに分ける、すなわち羊飼いと羊の世界観だ、という。
岡さんはリーダーシップとは「ああいう人になりたい、と思わせる力」以外にない、と断言する。これに対して小田嶋さんは「岡にとってのリーダーは憧れ」であるのに対して、普通は「自分たちの代わりに何かを決定してくれる人」だと解説する。これに対して岡さんは「なるほど。そういう意味では僕ば別にリーダーに憧れない」と納得する。
人生二割の意味
「人生2割がちょうどいい」というこの本のタイトルは、岡さんが過去を肩越しに振り替えった結果、「何にしても人生って2割、3割」とふと漏らしたことから始まる。
これに対して「仕事もプライベートも24時間全力投球」が信用できない、と小田嶋さんは応える。そして岡さんは、一生懸命やっていないから余力はある、と言う。
私の父親は普通のサラリーマンで、90歳の今でもパソコンとスマホがさわれる前向きな人だが、最近の口癖は「仕事にがむしゃらだった」だったのでその時代は余裕が無かった、だ。その意味で私よりも5年程度学年が上のこのお二人は「2割、3割」と振り返るのが大変興味深いし、私自身正直言ってまだまだ余力がある。
他人の同窓会覗きは面白い
人生50歳を過ぎると急に同窓会が多くなる。一般的には子供が大きくなり、家庭以外のことを考える余裕もできて、会社人生も先が見えて、セカンドライフを計画し始めるからだと思う。
ただ何度も同じメンバーと集まると同じ話の繰り返しで退屈だ。何とか新しい企画を計画するが、知恵もパワーも萎みがち。
その点このお二人の同窓会話は、時代背景が想像できるだけに、手軽に面白い。
ビジネスセンスがある人ならこういった「他人の同窓会覗き」をITツールで実現するのだろうなあ。誰かアイディアだけでも買ってくれないかな。
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