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生命と向き合う日々で

最近私は、職場に行くと
胸がキュッと締め付けられてしまう。
ある赤ちゃんがずっと泣いているのだ。

その赤ちゃんには名前がない。
というか分からない。
仮の苗字で呼ばれている。
ここでは Aちゃんと記載します

Aちゃんは深夜に救急搬送されてきた。
搬送されたAちゃんは血まみれで
タオルにくるまれ搬送されてきた。
大きな声で泣いていた。
赤ちゃんに付き添いは いない。
ドクターとナースが処置をしている間に
私はナースから
赤ちゃんが入るコット(ベット)の用意を
依頼され、ちらっと見た赤ちゃんの大きさや
疾患が有る無しを考慮した上で
コットの作成を早急にした。

処置が終わると赤ちゃんはコットに。
まだ血まみれだ。
赤ちゃんはずっと泣いている。
様々な検査結果が出るまで
保育士は容易に触れることは出来ない。
ビニールガウン・手袋着用し赤ちゃんに触れる
泣いている赤ちゃんが一瞬黙り
ジッと私を見る。
ちぃさな手が私の手を握って離さない。
赤ちゃんの上体を少し上げて、
身体をそぅっと撫でる。
「だいじょうぶよ、だいじょうぶ」
いつも私が入院している赤ちゃんに
声かけする時と同じように
Aちゃんにも声をかける。
とても力強い息遣い。
私の手を離さない、そのちぃさな手。
Aちゃんは生きている。

Aちゃんは ある場所で産まれてしまった。
Aちゃんのお母さんは
妊娠後1度も病院に通院していない。
いわゆる ″未受診出産″。
私がこの職場に勤務して2年以上経つが
未受診出産は2ヶ月に1〜2例程度ある。
しかし、今回は今までとは様々なことが違う。

それは、望まずに産まれてしまったこと。
お母さんはある場所で結果的に出産してしまい
赤ちゃんと共に救急搬送され、
私の勤務する病院に入院となった。
今も入院しているらしい。
保険証はなく自分の名前を明かさない。
赤ちゃんの父親は誰かわからないと。
出産は希望したのではない為、
Aちゃんには一切会いたくない、という。

搬送から数日経った今、
Aちゃんはミルクを飲む時、寝ている時以外は
ずっと泣いている。
まだ検査結果が全て出ていないので、
Aちゃんに触れるには
ビニールガウンと手袋着用。
Aちゃんは点滴をしており、
あまりに激しく泣いて動くので点滴が漏れて
処置が必要となり、また泣いてしまうほど
とても元気。
ずっと大きな声で泣いており、
ナースや保育士が交代でだっこするが、
一瞬黙るけれど
直ぐにバタバタと手足を動かし大きな声で泣く
うたをうたってもフワフワと身体を揺らしても
一切 Aちゃんの泣きは変わらない。
私はAちゃんの泣き声は
「おかあさん!おかあさん!」
と呼んでいるように思えて胸がギュッとなる

Aちゃんの行く先は、今のところ施設だ。
今は体重が少し小さいため、
一定の体重になるまで入院する。
体重がクリアしたら施設へ送致となるのだ。
とても上手にミルクを飲むAちゃん。
体重は きっと10日もしないうちにクリア、と
ドクターもナースも話している。

何の疾患もなく元気な姿で施設へ送り出したい
それまで私がAちゃんに出来ることは数少ない
うたをうたったり、抱っこしたり
おむつ替えやミルクを飲ませること。
Aちゃんに愛情をたっぷり注ぐことしか
私には出来ない。

今日も深夜まで働いて帰宅したが、
昨夜もずっとAちゃんは泣いていた。
「おかあさん!」
Aちゃんは呼んでいるんだと思う。

Aちゃんのお母さん。
Aちゃんは元気に泣いていますよ。
バタバタと手足を動かし、
力強く手を握ってくれますよ。
会いたくないならば、どうか心の中で
ほんの一瞬で良いから
貴方が1人で出産して抱き上げたであろう
Aちゃんを思い出してあげて欲しい。
そして、心から幸せを願って欲しい。
望まずとも、1人で出産し怖かったでしょう。
どうか自身の身体を労り、
心身が健康になったなら、
Aちゃんを思い出してあげて欲しい。

今日も
ナースも保育士も あなたの代わりに
Aちゃんに愛情を注ぎます。
Aちゃんが笑って過ごせますように。




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