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展覧会 #20 ルイーズ・ブルジョワ展@森美術館
六本木ヒルズの巨大な蜘蛛の彫刻《ママン》で知られるルイーズ・ブルジョワ(1911年~2010年)の日本では27年ぶりとなる大規模な個展が森美術館で開催されています。
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ルイーズ・ブルジョワ展
地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ
会期:2024年9月25日(水)~2025年1月19日(日)※会期中無休
森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通アクセス:
東京メトロ日比谷線 六本木駅 1C出口より徒歩3分
都営大江戸線 六本木駅 3出口より徒歩6分
入口に置いてある鑑賞ガイドは子供向けに用意されたものと思われますが、ルイーズ・ブルジョワのプロフィールや展示の内容が分かりやすくまとまっています。
現代アートは難しいイメージがあるので、こういうアイテムがあると鑑賞のハードルが下がっていいですね。
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母性
ブルジョワが生涯を通じて向き合ったテーマである「母性」。
これらの作品を観て感じたのは、慈しみや愛情と共に恐れや嫌悪が混じった複雑な感情です。そしてどこか痛々しさも。
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両性具有の獣のような姿
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女性の表情が印象的
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カップル
「カップル」はブルジョワにとって重要なテーマのひとつ。渦状になった男女が引かれあう様子が美しい。
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ニューヨーク移住後の初期作品
1938年、ブルジョワはアメリカ人美術史家ロバート・ゴールドウォーターと結婚し、パリからニューヨークに移住しました。
移住後の約10年間に制作された作品に焦点を当てたセクションでは、建築と女性が一体となった作品に家を守り家に守られながら生きる女性の不自由さや苦しさを感じました。
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腕のない姿が象徴的
《彼は完全な沈黙へと 消え失せた》は幾何学的で建築的な版画9点と物語が一対になっている版画集。シュールで毒のある物語が面白い。
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和訳:あるとき男がお話をしていて、それがまたとてもよい話で、話していると男はとてもよい気分だったけれど、早口すぎてだれも理解できなかった。
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和訳:あるとき男が妻に腹を立て、細かく切り刻み、シチューにした。
それから友人たちに電話をかけてカクテルとシチューのパーティーに招待した。
すると全員がやってきて楽しい一時を過ごした。
こちらは「人物像」という彫刻シリーズのひとつ。
建築物のような姿をした人物はブルジョワ自身を表しているそうです。
細長い姿に対してぶら下がっているものが大きくて重たそうに見えます。
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東京の空に浮かぶ彫刻
東京の風景を望む窓を背景に展示された彫刻作品。
頭部のない男性の反り返った身体が東京の空に浮かんでいます。この日は曇り空でしたが、天気が良ければ絶好のフォトスポットですね。
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不安定な心理状態
ブルジョワは父親に対して強い嫌悪感と愛されたいと求めてしまう相反する感情に苦悩し、解決できない執着を抱いていました。
父親に対する複雑な感情や他者との不安定な関係における心理状態を表した作品を紹介するセクションは展示室の暗さが作品の持つ闇の部分を強調していました。
1990年代前半から始まった「部屋(セル)」シリーズのひとつが《罪人2番》。
ブルジョワは、シリーズの制作意図を「苦悩と失望に意味と形を与えるため」とし、「痛みの存在を否定することはできない。それを和らげることも、言い訳することもできない。私は痛みを見つめ、それについて話し合いたいだけだ」と語りました。
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重いテーマの作品が続いたセクションの最後に、展覧会の副題に引用されている作品がありました。
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ブルジョワは1951年に父親が亡くなったことで深刻なうつ状態に陥り、数年間に渡り制作を中断、1952年から1966年まで集中的に精神分析に取り組みます。そして創作活動の休止状態から徐々に抜け出し制作を再開させていきます。
この作品は1996年の日記に書かれていた文章を、1973年に亡くなった夫ロバート・ゴールドウォーターが使っていたハンカチに刺繍したもの。
地獄からかえってきたところ。言っとくけど、素晴らしかったわ。
困難を生き抜いたブルジョワの言葉が心に刺さります。
修復と解放
ブルジョワは晩年の制作で家族や親しかった人々との関係を修復し、心を開放する方法を模索していました。
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自分や家族の衣類など日常生活で使用していた思い出の品を用いた晩年の作品は好きなものが多いです。
ここまで重いテーマの作品が続いたので、最後に自分の心にも平和が訪れたような気がしてほっとしました。
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最晩年の《ウジェニー・グランデ》はオノレ・ド・バルザック(1799-1850年)の小説からつけられたタイトル。
小説の主人公と自身を重ね合わせ、時の経過と人間関係に対する感情の変化を表現しています。
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《ビエーヴル川頌歌》はかつてパリ郊外に流れていたビエーヴル川へのオマージュ作品で、ブルジョワが生涯を通じて身につけていた衣服などをコラージュしています。ブルジョワの両親は川の近くでタペストリーの修復工房を営んでいました。
素敵なデザインの布に時間が染みついている感じが好きです。
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再び登場した蜘蛛。ブルジョワは1990年代半ばから2000年代後半にかけて蜘蛛のモチーフで繰り返し作品を制作しました。
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最後の展示室にあったこの作品がとても可愛らしくて好きです。
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芸術は正気を保証する
辛い出来事や困難を乗り越えて「生きる」ことを貫いたブルジョワにとって創作活動が生きることそのものなのかもしれないと思いました。
最後までお読みいただきありがとうございます。