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コレクション展は楽しい #07③ 東京国立近代美術館 2024年10月
今年4回目のMOMATコレクション鑑賞。長くなるので記事を3つに分けています。
※前回までの記事はこちら
清野賀子「The Sign of Life」
毎回楽しみにしている第9室の写真・映像展示。
今回は取り上げられていたのは清野賀子(1962-2009年)。
清野賀子はファッション雑誌『マリ・クレール』の編集者を経て、1995年に写真家に転身し、中判カメラとネガカラーフィルムで撮影した風景写真により国内外で評価されました。「The Sign of Life」は2002年に最初の写真集としてまとめられた連作です。(中略)
清野が探求したのは「美しい風景写真」ではなく、写真の風景のたたずまいでした。言葉に置き換えがたく、見ることではじめて立ち上がってくる世界。そこにあらわれる生命の徴をとらえるように、構図や光を慎重に選択してシャッターが切られています。
本当に何もない風景の連続。
「何もない」というのは日常的で特別な感じがしないという意味。
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でも何点か観ていくうちに、この景色の向こう側には何があるのだろうという興味が掻き立てられてきます。
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学校なのか、病院なのかそれとも企業なのかすごく気になる。
手掛かりが何も写っていないのは意図的なのだろうと思います。
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中央付近に街灯のようなものが見えて、このフェンスの先には幹線道路か高速道路でも走っているのかなと想像してみたり。
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中央奥の暗いところにフェンスらしきものが見えて、この先は森なのか山なのか、人が住んでいる気配はあるけれど、ここはどんな場所なのだろうと興味が尽きない。
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写真家として活動を本格化して初めて雑誌に発表した写真も資料展示されていました。
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(写真:清野賀子、スタイリング:富田香保里、ヘア&メイクアップ:柘植伊佐夫)
河原温
河原温(1933-2014年)は私にとって謎めいた存在。
「浴室」シリーズの不穏で謎めいた雰囲気がそのまま作家のイメージにつながっています。
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「Today」シリーズはコンセプチュアルアートの代名詞みたいな作品。
「Today」シリーズは、1966年1月4日より始められました。その日の0時に描き始め、同日のうちに完成させるというるるーのもとで描かれます。その真正さは作家の倫理と、作品を収録する箱にしばしば貼りこまれた同日の新聞記事によって保証されます。この作品群は、書き込まれた日付の日に、河原が生きていたことを表します。個人の生が西暦という無機質な時間概念と同期し、その中に還元されます。
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解説を読まないと理解できない、コンセプトありきの作品を受け入れられるかどうかは、その時の気分次第かなと思っています。
今回は次の「I GOT UP」シリーズが面白く感じて、コンセプチュアルアートを割と素直に受け入れられたのかなと思う。
「I GOT UP」シリーズは河原が滞在した場所の絵葉書を使って起床時間をスタンプした作品。よく見ると宛先は奈良原一高。同時代で親交があったことを知りました。
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奈良原一高
奈良原一高(1931-2020年)は、展覧会で『ヨーロッパ・静止した時間』を観て好きになった作家。
今回は第8室と第11室で作品を観ることができました。嬉しい。
『無国籍地』シリーズ
1954年の春からはじまった、第二次世界大戦で爆撃を受けた砲兵工廠(軍隊直属の軍需工場)を写したシリーズです。
少年の頃に軍需工場で働いた経験をもち、生き延びることだけが生き甲斐であった戦争の日々を過ごした奈良原は、廃墟の静けさを前にして、B29爆撃機の飛行機雲が消えた、終戦の日の青空を思い出したといいます。(中略)
作家は当時を回顧して次のような言葉を寄せました。「『不毛』それ自体が生きてゆく手がかりとなりはじめた。廃墟にある文明の究極の静けさが未来の旅立ちとなった」。
作品を通して伝わってくるのは廃墟の静けさ。
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鏡(水たまり?)や窓枠、車輪の枠を通して廃墟を見る構図が印象的で、過去をのぞき込んでいるような気分になります。
過去の残像が心に差し込んできて、恐れに似た気持ちがこみあげてくる作品でした。
ブロードウェイ
1970年から4年間ニューヨークに暮らしていた奈良原は、街路によってグリッド状に区画されたマンハッタンを南北に斜めに貫くブロードウェイが、17世紀の入植以前から先住民が使っていた小道に由来することを知ります。
万華鏡を見ているような写真が9枚並んだ見た目がまずカッコいい。
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魚眼レンズを付けたカメラを各交差点の歩道の角に据え、地上30㎝の高さから対面する角を撮影した、路面から空までを含む写真4枚で構成された作品は、その都市考古学的発想を形にしたものです。
道路の表情が強調されて、自分も地面の視点で街並みを見ている感じ。
道路の匂いがしてきそう。
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今回はMOMATコレクションだけを1日かけてたっぷり鑑賞しました。
いつも何か発見がある、楽しくて勉強になる大好きなコレクション展です。
最後までお読みいただきありがとうございます。