「屋上で流す音楽は、環境の引き立て役になる」DJ まっちゃん
僕は建築系のお仕事をするかたわら、RF Recordsという「屋上を通して広がる、都市や世界の豊かさを探求する」プロジェクトをしています。
屋上はなんとなくいいねと思われることも多いし、コロナの影響でその価値が見直される機会が増えています。とはいえ、屋上が「占有された特権的な場所(おうち時間の対象)」としてのイメージが強くなっている気がします。
もっとカラフルで多様な屋上の価値を浮かび上がらせることができればと思い、RF Recordsのメンバーにインタビューをしてみました。
一発目は、RF RecordsのDJ担当であり植物好きなまっちゃん。大学でランドスケープを専攻し、普段は都内で団地の管理や修繕の仕事をしています。
今回の記事に登場する屋上はRF Recordsのメンバーが住んでるところで、RE Recordsの拠点にもなっています。こんな屋上をいっぱい発掘して多様な使い方ができるように目指すのもプロジェクトの目的の一つです。
▲屋上とRF Recordsのメンバー
屋上では、環境に振り回されるから面白い
──屋上でやるDJって普段のとどう違いますか?
踊らせるってよりも空気感をまとめるというか、ゆるく包むみたいなイメージで音楽選ぶようにしているかな。
──ゆるく包むってどんな感じ?
クラブだと音楽は来てる人たちの目的になってて、音楽に合わせて照明がピカピカしたりするけど、基本的に環境は変わらない。逆に、屋上は温度が変わったり風が吹いたり環境がすべてを司ってるから、音楽はそれらを際立たせる脇役になるように流しているかな。
▲左・まっちゃん/右・筆者
──環境に応答するってことが求められるね。屋上って。
そうそう、自分たちでコントロールをできないというのは屋上のよさだと思うんだよね。だから、自分たちが屋上に合わせるしかなくて、振り回される側になるから自分がそれをどう乗りこなすかっていう面白さがある。音楽だけじゃなくて、例えば気温も寒くなってきたら上着を着るとかもそうだよね。主体的に受動的になる。
──屋上だから気を付けてることってあります?
周りに住宅があるから、音をクラブみたいに爆音で流さないようにしているかな。クラブで鳴ってるテクノとかって低音が身体に響くくらい強いのがいいんだけど、それを屋上でやったら、大変なことになってしまうんだよね。だから、ここでは低音はそんなに強くなくて、聞き取りやすい中高音がメインで構成されてる曲を選んでる。そうすればボリュームをそんな大きくしなくても聞こえてリズムも把握しやすいからね。
──音楽の感じ方が変わりそう。
屋上でDJするようになってから、レコード屋さんで「これは屋上、これはクラブ」って選別して聞くようになった。そういう視点が増えたっていうのは、自分のなかですごい大きな変化。
あと、室内と外で聞く音楽は感じ方が違うから、同じ曲であっても屋上で聞くからこそ感じる音楽ってあると思ってる。あと、ダンスミュージックにこだわらずに色々な曲を選べるのが楽しいかな。
“公共空間”ではない屋外という希少性
──屋上ってどういうところがいい?
屋上にもよるけど、ここはなんでもできる。何もないからこそ好きなように使える場所があるっていうのが最初の衝撃だった。普通登れる屋上って商業施設とかで、ある程度使い方が限定されていて、なんとなくその場にルールがあるみたいなところが多いんだけど。
──ルールっていうのは、どういうこと?
「こう使ってください」っていう設定があることかな。例えば、公園にはベンチや遊具とか設備があるからそっちに集中しちゃうし、周りにいる人やその人たちからの視線が気になっちゃう。公共空間だから、公共的なふるまいをしないとっていう意識がどうしても働くしね。
それに比べて、知らない人が突然入ってくることもない。それがここの心地よさの要因だと思う。
──確かに、公園だとなんか自由に過ごせないよね。
そうそう、公共かどうかで全然違うと思うんだよね。公園で部屋の中みたいにぐったりするとか、ふとん持って行って寝るとか、絶対できないじゃん。でも、ここだったら多分できる。自分の部屋と地続きというか、拡張版みたいな気持ちで使える。これだけ自分を解放して外で自由にふるまえるところって、屋上くらいしかないと思うんだよね。
視点が上がるだけでそこが知らない場所になる
──ちなみに、ふだんの生活と屋上体験との違いってなにかあります?
同じ街でも、屋上から見える景色は日常で見てる景色とは全然違う。数十メートル視点が上がっただけでも、違った街に見える。イメージとしては、昔のゲームのポリゴンの中に突っ込んじゃって、よくわかんない裏世界みたいなところに入って、知ってる要素も残ってるんだけど知らない要素の方が多くなっちゃってる、みたいな(笑)
──ポリゴン(笑)
屋上からさっき自分が歩いていた道が見えるから、そのまま繋がってるってわかるけど、視点が全然違うから違う場所に感じるっていうのがおもしろい。それを、RFのメンバーで「バグ」っていっている。
──バグっすか。
言い換えるなら、「えっ!?」ていう少しの困惑と楽しい違和感。知っているはずの場所で感じる非日常って、旅行とかで感じる非日常とは全然別ものなんだよね。日常と違うところに行って「ちがうな」って感じるのは当たり前だけど、屋上だと知っているはずなのに知らない場所になるってのが気持ちいい。
──屋上で活動する中で、新しい感覚を得たり色々な発見があったんだね。部屋の中でテレビとか見てるけだと受動的だから、それほど内側からの変化は起きにくいと思うけど。
今まで話したような今までになかった気付きもたくさんあったけど、本来あるべき感覚が戻ってきたようなこともあって。
例えば、うちにこもってると外に関心を向ける時間が短いから、「この季節ってまだ意外と明るいんだな」とか「意外と寒いんだな」みたいなのは、日常ではなかなか感じにくい。地方に住んでいる人や農家の人は当たり前のように日常的に感じてると思うけど。屋上なら都市でもそういうことが感じられたりとか、いろんな感覚が刺激されておもしろいよね。
取材・文:片山浩一
編集:外山友香
写真:宍戸知勢(一部 RF Records)