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Stay in love

会社卒業年齢がどんどん若くなる

60歳超えたら会社を放り出される。現時点ではそれが65歳かもしれないけれど、たぶんこれからどんどん「会社卒業してね」年齢は若くなっていくはずだ。法令が社員に優しく、会社に厳しくなる一方だから、会社としても自衛策として、「早目に出てね」とやるに決まってる。

若い年齢で独立自営しなければならなくなる。そうなると、仕事への向き合い方がすごく重要になってくる。大企業にいて、独立自営を始めたぼくの経験から、ちょっとそのへんについて話します。

まだ会社員だった頃、シリコンバレーのトム・ピーターズのオフィスTPGに行った。

あいにくトムには会えなかったのだが、クレアという女性スタッフとの対話が印象的だった。

阪本「何の仕事をしているの?」
クレア「私たちは、生み出しているのよ(create something)」

「何の担当?」というぐらいの軽い気持ちで聞いたつもりだったのに、「クリエイト」という言葉が返ってきて、びっくりした。

自分の仕事を愛しているだろうか?

 クレアは従業員のポジションでありながら、独立自営のオーラをまとってた。それは、彼女の仕事への姿勢が「生み出す」という言葉ににじみ出ていた。もちろん、厳しいシリコンバレーの地で、「生み出す」ことなしに給与だけをもらえるようなことはなかったのだろう。

自分は仕事を「生み出す」より「処理」してきただけなのではないか?

帰途の飛行機で「自分は何を生み出せるのだろう?」と自問した。入社して17年、「仕事ができる」という自負はあったが、その「仕事」って、何だったのだろう? 「処理を上手にできる」だけなのではないのか? 同じ旅で出会った、シリコンバレーで活躍するベンチャー起業家との会話を思い出しながら、自分を振り返ってみると、「生み出す」より「処理する」ことに偏っているような気がしてならなかった。考えがまとまらないまま、TPGジム・コーゼズ社長からもらった本を読んでいると、次のようなフレーズに出会った。

 あなたは自分の仕事を愛しているだろうか? 人生の他の何よりも一番に愛していると言えるだろうか? もしノーなら、仕事を変えたほうがいい
Kouzes&Posner, The Leadership Challenge, p.312 阪本訳  

そして、医者の仕事より、ガールズキャンプの設立を優先した女性医師の事例が続いていた。彼女は余命いくばくもないと宣告されたあと、ガールズキャンプを始め、結局その後50年その仕事に奉じた。その文章にジムがつけたタイトルは「Stay in love(愛にとどまれ)」。仕事に関することで、loveなんて言葉を使ったことはそれまでなかった。

 入社以来、ヘーベルの営業をやってきて、充実した仕事人生を送ってきた。しかし、その仕事を愛していると言えるのか? 人生の優先順位で一番に置くほど? 仕事と人生は交わっていたのか? そもそも交わるものなのか? こんな発想はしたことがなかった。

 むしろオンとオフは明確に分けたい性分だった。年末になると、翌年の手帳を広げ、土日・祝祭日をラインマーカーで塗り、「色のついた日々はオフだ。自由に使うぞ!」と意気込んでいたぐらい。その前年から始めていたグロービスビジネススクールの講師などの副業はオフ、週末にこなしていた。

 では、それらの副業を愛していたのか? これも「愛している」というほどのものではなかった。

仕事と人生を重ね合わせる

 帰国後に交わしたメールの中で、ジムはかつて仕事に熱中するあまり、家族を顧みなかったことや、奥様を病気で亡くしてしまったことといったプライベートな体験を語り、「仕事も大事だが、人生で手放してはいけないものは何なのか、よく見極めることが重要だよ」とアドバイスしてくれた。

 このとき、「仕事を処理する」と「生み出す」と「仕事を愛する」の三つがバチンと一つになった。

 仕事を処理しているうちは、仕事と自分の人生との間にスキマがある。仕事を対象物として扱っているわけだから。しかし、人生において大事なものや愛するもの――もちろんその中には家族が入ってくる――について考えたとき、仕事は自分の生き方やあり方から生み出すものになる。人生と仕事が重なってくる。

丸ごとやってみる

では、どうすればいいのか? システム化が進んだ大企業だと難しいところがあるが、それでもあえて仕事を丸ごとやってみることだ。社内独立自営業者のつもりで仕事に向かう。

 大企業から独立すれば、いやでも仕事を頭からしっぽまで全部やらなければならない。ちょうどいまの時期、年末調整やら給与支払報告書作成やら、総務会計的仕事に追われる。処理は処理だが、やらなければ前に進まない。つまり、一つひとつの仕事がそのまま、私の経営する「JOYWOW」、そして阪本本人の表現になっているわけだ。

 例えば、仕事にJOYとWOWを込める実践として、請求書封筒の封かんにイラストでJOYWOWマークを描いて楽しいものにしている。相手がふっと笑ってくれたらいいなと願いつつ。イニシャルKの文字を刻印したりもする。

レジュメなどに刻印します

 企画する際、すべてにお金が絡む意識を持とう。いくら投資して、いくらリターンがあるのか。大組織の企画は細分化され担当化されてしまうのが常だが、丸ごと俯瞰(ふかん)するようにする。時間もお金を食う。企画が完成するまで長引けば長引くほど、お金が出ていく。企画立案に時間の観点を必ず加える。いつまでに完成というように。

 そして、時間の公私混同をする。週末はオフで、ウイークデーはオンという考えを捨てよう。すべてが仕事、すべてが遊び。週末、家族で食事に行くレストラン。自分が経営者ならどう改善するか考えてみるのもいい。「メニューはこのままでいいのか?」「損益分岐点や売上高はいくらだろう?」といった具合だ。

 仕事を「処理」から「生み出す」へ――。小さな積み重ねで、考え方が変わっていく。「仕事を処理する」と考えがちな「大企業のしっぽ」がやがて消えていくはず。

そして一番大事な姿勢が、Stay in love、愛にとどまれ。

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