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昔むかし、カイシャってあったんだって
びっくりした。
おじいさんが若かった頃、「カイシャ」というのがあったんだって。
「会社」って字らしいんだけど。
それで、毎朝そこに電車乗って行ってたんだって。
毎朝行くなんて、ちょっと想像がつかないんだけど、「ほら、ガッコウと一緒だよ」とおじいさんが言うけど、ガッコウも想像がつかない。
カイシャに行って何してたかっていうと、仕事だって。
仕事!
人が一箇所に集まらないとできない仕事って、ミュージカルとか、お芝居とか、音楽ライブとかくらいしか思い浮かばない。映画ももう、仮想空間と現実空間とアバターキャラクターと人間の俳優さんとミックスで制作するのがフツーだから。
仕事の内容を聞いてみたけど、これがよくわからないんだ。頭脳労働だから説明しづらいって、おじいさん言うけど、だったら別に身体集める必要ないじゃんと思ってしまう。
「いやそれでも、実際に顔合わせないと感じられないことってあるじゃん」
ないと思う。
それに、おじいさんの、特に若い頃はカイシャの人数(シャインスウって言うらしい)が多いほど、売上が大きいほど「えらい」尺度があったんだって。
3万人とか、カイシャによっては10万人とか。
10万人集まらないとできない価値創造なんて、あるのかな。
たくさん売れると「ベストセラー」と呼ばれて「いいこと」とされてたらしい。ザッシ特集されたり(このザッシ、というのもよくわからないのだけど)。
ぼくらの世代のベストセラーは、一人ひとりにベストマッチングしていること、オリジナルな「欲しい」にぴったんこの商品のことを言うんだけど。
そんな、誰もが持ってる商品って、何がいいのかわからない。
そういう「たくさんの人が欲しがる商品」を出すのがなぜ「えらい」のかわからない。
現代と相当価値観が違う。
歴史の教科書で習った「2020年コロナ禍」がきっかけで「働き方改革」が生まれたというけど、働くことがえらい、お金たくさん稼ぐのがえらい、という価値観は想像できても、実感できない。だってお金って、いまは記号でしかなくて、生まれてから一度も通貨というものを手にしたことがないから。博物館では見たけど。
ぼくの最近の楽しみは、クラウドからおじいさんの意識を呼び出して、昔話を聞くことなんだ。
今日も、おじいさん呼び出してみよう。
おじいさん、とっくの昔に亡くなったんだけど、「意識」はクラウド上のサイバースペースに残ってて、生きてる。
「おじいさん、ぼくだよ。出てきてー!」
写真はおじいさんが住んでるサイバースペース。