はなればなれのデュエット
紫陽花と蝉の声 数年前の5月31日。季節はまだ春と呼べるのに、その日はうんざりする程に暑い日だった。まだ梅雨入りさえしていない晴天で、空気は夏のような熱気を帯びていた。田舎まちの最果てへ向かう電車の途中の停車駅で、自動ドアが開いたホーム脇に紫陽花の花が見えた。その奥の青々と茂った木々のどこかからは、蝉の鳴き声が聞こえた。6月にもなっていないその時期にまさかもう紫陽花が咲いていて、蝉が鳴いているとはにわかには信じられなかったから、いつもより一際早く夏の訪れたその年の記憶は鮮明に