『蟹座の溺れかけた町』
ある春の終わり、3年と少しの時間を一緒に過ごした彼と別れを決めた僕は、勤めていた映画館で知り合い、長い年月付き合いを続けることになった女友達の引っ越した、京都へ遊びに行った。その帰りのバスの中で、ぼんやりと外の景色を眺めながら、彼のことを考えていた。
そのおよそ一年前、半ば突発的にある人の死で背負うことになった悲しみに折り合いをどうつけて良いのかわからず、少しずつ変わってしまったふたりの空気。自分以上に彼の方がつらさは大きかったはずなのに、繋いでいたはずの手を手放したのは僕か