転職活動リマインダー -天動編-

前回、"律動編"からつづく。

6. Play a Love Song

転職活動って大変だよね、という気持ちである。

世の中に存在する転職活動のほぼ全ては、現職の仕事をこなしながら行われるものと思われる。それは当然で、特段の事情がなければ、生活の保障がある状態で活動すべきだし、上手くいかなかった場合の安全装置にもなるだろう。退路を断つことで意欲を示すという考え方もあるが、それが企業側に評価されるかは甚だ疑問である。

反面、今の仕事をこなしながら転職活動を並行して行うのはなかなか大変である。スケジュール管理や時間的な制約もあるが、そもそも現職に不満があるから転職活動をするケースが多いと思うので、そういった気持ちを抱えながら、上手くいくかもわからない活動を続けていくのは、個人差はあれどそれなりに精神的なコンディションに影響を及ぼすだろうとも思われる。現職の忙しさを理由に転職を検討する場合はなおさらだろう。不合格になると、自分を否定されている気分に陥ることも否定できない。ちなみに、経験者として一言残しておくと、貴方の人格は決して否定されていない。音楽性が違うだけである。

そんな時に必要なのは趣味である。人には趣味が必要だ。筆者の趣味の最たるものはゲーム、特に一人で孤独に遊べるような据え置き機向けのコンシューマーゲーム(※1)である。この年でゲームが趣味だと人に告げると、往々にして「ゲームの何がそんなに楽しいの?」と尋ねられる。これは極まった愚問だとゲーマーに限らず趣味に生きる人々は感じるだろうが、社会人であればこれくらいのお戯れは美しくかわせる立ち回りが必要であり、筆者はこのように答えることにしている。「ゲームには上司がいない」(※2)。家畜に神はいない(※3)のと同様の理屈だと思っていただいて差し支えない。

転職活動中、筆者はゲームを始めとする様々なエンターテイメントに触れることで、人としての形を維持していた。人生には精神的な逃げ場が必要で、こういった趣味がなければ転職活動が上手くいかなかったかと言えば決してそんなことはないが、心の安寧に趣味が大いに貢献していたことは間違いない。従って、以下、転職活動中に筆者の平穏に貢献していただいた皆様を、感謝を込めて順不同で紹介していきたい。

・『新しいきみへ

筆者は転職活動のことを"ダイバージェンス1.0%の壁を超える活動"と呼んでいたが、"STEINS;GATE"を見るよりも先に『新しいきみへ』を読んでいれば、おそらく"新しいきみへプロジェクト"と呼んでいただろう。それくらい、筆者の心境と一致していた。脇役達の不撓不屈の物語であって、筆者も人生における脇役であることは間違いないのだが、転職活動も新しいきみへ向けた活動なのだと心を奮い立たせていた。余談だが、このマンガがあまりにも面白いので紙媒体でも購入しようと思い立ち、バンコクの紀伊国屋書店(※4)を巡ったが、なぜか4巻だけ売っておらず、揃えるのに苦労した。4巻の描写に不適切な点があるのだろうか(※5)。

・"ペルソナ3 リロード"
スグルさん、リロードも素晴らしいよ(※6)。原作(と呼ぶのが正しいのかはわからない)をプレイしたのは大学生の頃なので、もう15年以上も前である、その後も何周かプレイしたのだが、これがオリジナル作品なのではないかと錯覚させられる。当然、過去にプレイしているので、新要素が追加されているとはいえあらすじは知っているし、結末も知っている。それでも、傑作に特有の「このゲームを終わらせたくない」というエンディング拒否の思いに駆られ、1月31日にタルタロスの頂上で中断し、とぐろ島に鑑定士の腕輪を探しに行ってしまった(※7)。このゲームのエンディングを見て、「自分もこんなゲームを作りたい」と思う人間がいても全く驚きはない。いのちの答えはともかく、転職活動の答えは自分にも見つけることが出来た。

・"Stellar Blade"
こんなにも表現力の高いアクションゲームを作ることができるのか、と感嘆してしまった。衣装や髪形のカスタマイズ(※8)を含めて、とにかく魅せる動きが追及されており、"デビルメイクライ"や"ベヨネッタ"の系譜に連なる、スタイリッシュアクションの到達点の一つだと思う。ただ、イヴの眉毛はちょっと太くないですか?

・"NieR:Orchestra Concert 12024 [the end of data]"
このコンサートも日本人はほとんどおらず、タイ人かファランと呼ばれるタイ在住の西洋人が観客のほぼ全てを占めていた。ニーアシリーズで有名な曲と言えば、"イニシエノウタ"、"カイネ"、"Weight of the World"あたりだと思うが、筆者の隣に座っていたおそらくタイ人の方が、これらの曲が流れるたびに、両手で顔を覆って嘆息の声を上げ、感動に打ち震えていたのが印象に残っている。気持ちは同じだぞ、と心の中で呟いていた。

・"FINAL FANTASY VII Rebirth"
"起動編"で言及したコンサートにおいて、指揮者のアーニー・ロスさんが「スクエニ!FF7リメイクの続編待ってるぞ!」と煽っていたのが印象に残っている。筆者くらいの年齢であれば、少しでもゲームを齧っていればFF7を知らないということはないと思うし、その思いをきちんと汲み取った上で作ろうという意志が感じられる。釘バットみたいな肩当をしている人間は、普通であれば近寄りがたいことこの上ないと思うのだが、なぜここまで周りから好かれるのか。なお、皆さんが最終面接に臨む際には心の中で「決勝、だね」(※9)と呟くことをお勧めする。薄ピンクのワンピースと赤いジャケットを身に纏った女性が助けに来てくれるかもしれない。

・『BADON
再起を賭ける人々の物語であり、何かを変えようとする人々の物語である。学生時代、筆者がアルバイトをしていた書店(※10)に『リストランテ・パラディーゾ』が入荷し、絵柄に惹かれてジャケ買いして、お洒落で洒脱な登場人物達に衝撃を受け、以降、筆者はオノ・ナツメさんを追っている。『ACCA13区監察課』も傑作だが、やはり筆者にとってはこの『BADON』こそが"世界で最も面白いと考えているマンガ"である。とにかく台詞が良くて、こんなにスタイリッシュでお洒落な会話は、オノ・ナツメさんの作品でしか見たことがない。転職活動中も、時に読み直しては折れそうになる自分を奮い立たせていた。今後も折に触れて読み直すだろう。

7. そして伝説へ

というわけで、筆者の転職活動に関する様々な記録もこれにて終了である。転職は、自分がより充実した人生を送る為の手段であって、目的ではないし、転職先で充実した人生を送ることが出来るかどうかはわからない。自分だけではなく、周りにも様々な影響があるだろう。自分の選択に後悔しない為にも、森羅万象ありとあらゆるものの助けを借りながら、精進していきたい所存である。以上、長くなりましたが、ここまでご拝読頂きありがとうございました

注記

※1:据え置き機向けのコンシューマーゲーム
ここで言いたいのは、基本プレイ無料を前提としたFPSMOBAはあまりプレイしていない、ということである。筆者の嗜好がそう、という話であり、FPSやMOBAも素晴らしいゲームであることは疑いの余地がない。

※2:「ゲームには上司がいない」
ここでいう「上司」というのはあくまで概念であり、具体的な個人を指しているわけではないのだが、この話をするといつも「今の上司が嫌いなの?」と言われる。この世に悪があるとすれば、それは人の心である

※3:家畜に神はいない
"ファイナルファンタジータクティクス"より、アルガス・サダルファスの台詞。さすが冷血剣階級主義を表すのにこれほど適切な言葉はないと思うが、名言と言うにはあまりに悪意に満ちている。

※4:紀伊国屋書店
バンコクで日本語の本が欲しければ紀伊国屋書店に行くしかない。海を渡った地で日本人の活字文化を支える姿勢には感謝しかない。

※5:4巻の描写に不適切な点があるのだろうか
この観点で言えば、2巻の方が不適切だと思われる。

※6:スグルさん、リロードも素晴らしいよ
スグルさんについては、こちらをご参照のこと。

※7:とぐろ島に鑑定士の腕輪を探しに行ってしまった
"風来のシレン6 とぐろ島探検録"より。鑑定士の腕輪はゲーム内ダンジョンの一つである"推測の修験道"の深層にしか存在しない。率直に言うと、このアイテムの回収を狙う時点では、大半のダンジョンをクリアしてしまっているはずであり、あまり活躍の機会がないが、だからと言ってそのままにはしておけないのがゲーマーである。

※8:衣装や髪形のカスタマイズ
キャラクターカスタマイズ要素があるゲームは多いが、筆者はあまり活用しない。基本的にはデフォルトの状態で進めるので、"Stellar Blade"でも1周目はプラネットダイブスーツ(第7)のままでクリアした。しかしながら、2週目は衣装から髪型から、いろいろと試して楽しんだ。これは筆者にとって初めての経験である。

※9:「決勝、だね」
ラスボス連戦におけるエアリスの台詞。決戦ではなく決勝というところに個性が表れている。個人的に、エアリスはゲームにおける女性キャラでは画期的な存在だと思っていて、それまでのゲームでは女性らしさのみをことさら強調したか弱いキャラか、それの反動としての男勝りお転婆なキャラ、あるいは男性社会に立ち向かう軍人のようなキャラがほとんどであり、大人らしさかわいらしさが同居した女性キャラは少なかったと思う。

※10:アルバイトをしていた書店
今はもうない。


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