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東信は、三重塔王国か その②

三番目は、前山寺三重塔となる。
この塔が三番目となった理由は、この塔が「未完成の完成の塔」と呼ばれていることによる。
大法寺三重塔が様式美の極致なのであるのに対して、前山寺三重塔は崩しのテクニックとでも言おうか、「破調の美」なのである。

二重目・三重目には、窓も勾欄も廻り縁も持たない姿であり、その代わりとして、本来切り詰められるべき貫の木材が飛び出したままの姿となっている。
無造作な貫の飛び出しの姿に呼応するかのように、組み物の飛び出しもまた荒々しく、なぜか躍動感さえ感じてしまう。
未完成であるがゆえのエネルギーの発露であろうか。
この姿を味わうためには、やはり、先に国宝三重塔の様式美の姿を目に焼き付けておくべきだろうと思う。

藤の花の季節には、立派なカメラを構えて撮影に勤しむ好事家や、マルハナバチなどが飛び回るので、やや気を遣うのがご愛敬か。

足を延ばせば塩田城跡があるが、ここの奥地は修験道場の山なので、軽い気分では足を踏み入れるべきではない。
鎖場を越える覚悟がなければ、きっと引き返すことになるであろう。

泥宮神社も近いので、気軽に行くならそちらへ行こう。
特別何があるでもないが、泥池あたりから見る独鈷山の山姿は雄大で、なかなかよいものである。
近くの草むらの中では、ミソサザイが饒舌にさえずっていて、ここを立ち去る自分を引き留めようとしているように聞こえている。

前山寺三重塔 破調の美
前山寺三重塔 藤のしたたり

上田市内の最後、四番目は、安楽寺の国宝八角三重塔で締めよう。

大法寺三重塔と対照的であるのは、安楽寺八角三重塔が禅宗様(唐様)の作りであることだ。
放射状に組み込まれている扇垂木の神々しさは、まるで太陽の光輪のように見る者を圧倒する。
この三重塔が、信濃国分寺三重塔に始まる上田レイラインの終点とも言われているのも頷ける神々しさである。

ぱっと見は四重のように見えるけれども、一番下の屋根は、飾り屋根・裳階(もこし)ということだそうで、三重である。
そして、なによりも特異な点は、日本で唯一、八角形の姿をした三重塔というところだ。

その曲線の見事さ、作り込みの細かさには、心を奪われる。
わたしも最初は、善光寺本堂や松本城天守と比較して、国宝と言っても三重塔か・・・などと思っていた口である。
それゆえに、実物を実際に目の当たりにしたときの、衝撃と感動は忘れない。

三重塔は、美しい。
夕方ぐらいに訪れたならば、背後の太陽光が、後光のように耀き、圧倒的な存在感を感じられる。
三重塔の建つ高台まで、階段を下から登っていくのであるが、遠くから見上げる段階で、神々しさを感じてしまう。
木組みの一本一本、板張りの一枚一枚が響きあって、ひとつの三重塔を形作っているという、その迫力をダイレクトに感じる。
板一枚一枚の色の異なりが鮮やかで、モザイク模様のステンドグラスのようにまばゆく感じられる。
しばし、時を忘れてたたずむのもよい。
善光寺や松本城などと違って、拝観の観光客はまばらにしか訪れないので、静寂の中で国宝の響きに耳を傾けることが出来る。

国宝八角三重塔を堪能した後には、別所温泉の湯でくつろぐのもよいだろう。
安楽寺から歩いていける距離にある、北向観音にお参りし、参道の商店街でひと息つくのもお勧めできる。
商店街で売られている名物の七苦離煮は、土と木の匂いがほどよく香って、米臭い日本酒の肴にちょうどよい。
土と木の匂いなら、地味な三重塔めぐりの夜にもってこいの酒のつまみである。

安楽寺国宝八角三重塔 神々しさ
安楽寺国宝八角三重塔 扇垂木の美
安楽寺国宝八角三重塔 響きあう


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