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#1_スイート・マイホーム
スイート・マイホーム / 神津凛子
理想の家,理想の家庭.「理想」という言葉がこの小説ではキーワードとなる.皆各々の「理想」の人生を追い求めて生きている.見かけの理想の実現の為に心に闇を抱えながら,どれ程近くにいる人にもそれを見せぬようにしながら,演技的に,孤独に生きる.
この小説では,理想の家庭を追い求めるがあまり精神が崩壊し,他人の家に棲みついて自らを投影することで理想を実現しようとする本田を,社会から逸脱した人間として狂気的に描く.劣悪家庭環境が招く精神疾患.それにより引き起こされる犯罪.おおよそ自分には関係のないように映り小説を小説で終わらせようとしてしまう.
「赤ちゃんの瞳って湖面みたいでしょう.何でも映し出して.」ユキは「ひとみ」に,「瞳」を奪われる.対照的に描かれた,最後に見せた統合失調症の兄の優しさが事を際立たせる様が言いようもなく気持ち悪く,それでいて美しい.
日常に潜む闇.ありふれた人間こそが最も恐ろしい.人生という演技を美しい湖に見破られた時,人は見事なまでに狂気的になってしまうのかもしれない.例えそれが,愛する我が子であろうと.