チェリビダッケのベートーヴェン
チェリビダッケ。長くミュンヘンフィルの首席指揮者をした、戦後欧州を代表する指揮者である。
中川右介氏の名著『カラヤンとフルトヴェングラー』は、ベルリンフィルの首席指揮者のポストを争うカラヤンとフルトヴェングラーの(醜い、しかし人間的な)争いを描いているが、フルトヴェングラー退任後にベルリンフィルを指揮していたのは実はこのチェリビダッケで、この著作の第三の主人公と言っても良い存在感である。
チェリビダッケは、このポスト争いに負けたのち、ベルリンを離れ、その後ミュンヘンフィルを長く指揮した。日本にも何度も来日し、そのたびに観客を熱狂させた。得意な曲はブルックナーであり、世評も極めて高い。
チェリビダッケは、録音嫌いで知られていた。自分の音楽は実演でしか伝わらない、という考え方で、生前は正規録音はほとんどなかった。そのため幻の指揮者、などと言われていた。しかし、その死後に、遺族の意向で、続々とミュンヘンフィル時代の演奏がCD化された。ありがたいことだ。
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なぜか私はチェリビダッケのブルックナーが嫌いで、何度も聴いたが、気に入ることがなく、今に至っている。ブラームスも良くなかった。晩年のミュンヘンフィルのものは嫌いで、若いころのシュトゥットガルト放送交響楽団との録音のほうが好きだった。好きだったのは、何と言ってもシューマンとハイドンだった。
チェリビダッケのベートーヴェンは、世評を見ると、ちょっと独特な演奏だったようだ。正確に言うと、他の曲も独特なのは同じだが、ブルックナーはその独特さが受けている一方、ベートーヴェンはあまり受けていない様子だった。
私はチェリビダッケのベートーヴェンは食わず嫌いをしていて、youtubeでもまったく聴かなかったのだが、たまたまボタンを押したかなにかで、チェリビダッケの第九を聴き始めたところ、これが大変素晴らしくて、思わずこの70分を超す大曲を最後まで聴き通してしまった。
テンポが良い。私好みのスピード感で走ってくれる。疾走・躍動する演奏だ。彼の演奏は、とかくテンポが遅いと言われており、ブルックナーはそれが嫌いだったのだ。ベートーヴェンもてっきりテンポが遅いと思っていたが、意外なことに速かった。
というわけで、チェリビダッケのベートーヴェンを聴き始めている。第九はもとより、3番エロイカ、5番運命、7番などいずれも素晴らしい。この年で、しかも、ここまで聴き込んできたベートーヴェンの交響曲でこんな新しい出会いがあるとは、思わなかった。新たな出会いに感謝だ。
(なお、世評を気にしすぎに見えるかもしれないが、youtubeで聴けるようになる前は、どうしてもCDを購入せざるを得ず、資金面で限界があった私は、世評を眺めてため息をつく、という日々だったのだ。youtubeで聴くことで、クラシック音楽界に貢献しないのはよろしくないので、最近はできるだけコンサートに行くようにしている。)
『人の生涯は、ときに小説に似ている。主題がある。』(竜馬がゆく) 私の人生の主題は、自分の能力を世に問い、評価してもらって社会に貢献することです。 本noteは自分の考えをより多くの人に知ってもらうために書いています。 少しでも皆様のご参考になれば幸いです。