漢字が嫌いな人ほど読んでほしい漢字の話
「裡」
この漢字、なんと読むかわかりますか?
そこまで難しくありませんね。
正解は、「リ、うち」です。
「作戦は成功裡(セイコウリ)に終わった」とか、「首脳会談は秘密裡(ヒミツリ)に行われた」なんて使われ方をします。
あるいは訓読みだと、「胸の裡(うち)を打ち明ける」というように使われます。
今、例にあげた「成功裡」や「秘密裡」という言葉ですが、メディアなどで実際に目にするのが多いのは「成功裏」や「秘密裏」の表記だと思います。
つまり「裡」を「裏」と置き換えているわけですが、理由は簡単。
「裡」が常用漢字ではないからです。
厳密にいうと「裡」と「裏」では意味のニュアンスが異なるようですが、大まかには同じ意味だということで「裏」が代用されているわけです。
実は、この2つの漢字にはある秘密があります。
ここでまたまた問題です。
「裡」の部首は何かわかりますか?
正解は、「ころもへん」です。
ちなみに、「しめす(示)へん」と「ころも(衣)へん」がごちゃごちゃになっている人がいますが、それぞれ点の数が違います。
部首の成り立ちを見てみれば違いは一目瞭然です。
さて、本題はここから。
「裡」の部首は衣偏だという話をしました。
つまり、こうです。
「裡」と「裏」は全く同じなんです。
余談になりますが、「裏」の部首は「裡」と同じで「ころも」です(偏ではない)。
こういったパーツを組み換えただけの漢字は、実はあまり珍しいものではありません。
特に、人名や名字に使用される漢字で見かけることが多いと思います。
「峰」と「峯」、「嶋」と「嶌」など。
他には、「蟹」と「蠏」も同じ意味です🦀。
絵や図から派生した甲骨文字をルーツにもつからか、漢字は意外と適当です。
さらに突っ込んだ話になりますが、文化庁が「常用漢字表の字体・字形に関する指針」というものを公開しています。
具体的な漢字を示して、字形の許容例が掲載されています。
例えば、「天」という漢字は下が長くてもOKというように、「え、これもOKなの!?」といった面白い発見があるのでぜひ見てみてください。
小中学生時の漢字テストで、「とめ・はね・はらい」が原因で減点されたという経験がある人も多いとは思いますが、文化庁が「骨組みがあってればOK」という趣旨の指針を出しているように、漢字において「とめ・はね・はらい」は重要ではありません。
よく例で示されるのが「木」という漢字。
2画目をとめるか、はねるか、ということですが、どちらもマルです。
左側の「とめ」が一般的かと思われますが、3画目に移行する際の筆の運びを考えると、むしろはねた方が自然です。
このように、「とめ・はね・はらい」は漢字の正誤における正確な判断基準にはなりません。
もし誤答になってしまったら、それは採点した先生の好みやこだわりの問題です。
ただし、先生が「とめ・はね・はらい」までこだわってチェックするのには訳があります。
それは、細かいところまで丁寧に書かないと、いつまで経っても漢字の正確な字形を覚えられないからです。
例えば、先の「しめすへん」と「ころもへん」ですが、「大体あってればいいでしょ」という気持ちで適当に書いていると、いつまで経ってもごちゃごちゃしたままです。
また、大人になって「小さい頃の厳しい指導のおかげで、綺麗な字が書けるようになった」という人もいるので、細かい漢字の指導が一概に悪いことだと結論づけることはできません。
要は、「許容字体があることを理解した上で書く」と「細かいことをこだわらずに雑に書く」とは全く性質が異なるということで、その違いが理解できない低年齢の子どもを指導する際はある程度の厳しさは必要かなと思っています。
余談ですが、自分が小学校の教員だった頃は、「丁寧(雑)かどうか」というのを採点基準の一つにしていました。
字の上手さには個人差がありますが、雑に書いているかどうかは見てすぐにわかります。
あちこち行ってしまった話を無理やりまとめますが、漢字の学習時にある程度の厳しさが必要だということは認めるものの、そのせいで漢字が嫌いになってしまう人が増えるのはもったいないと思います。
漢字は意外と適当なんですよ、って話でした。
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