PFPS(膝蓋大腿疼痛症候群)〜病態考察〜
こんにちは、BORDERLESSのKiyoです。
記念すべき1回目を担当させていただきます!
アスレティックトレーナーやセラピストのみなさんは、オスグッドや術後ACLではない、特に原因のない膝の痛みを訴える患者さんに遭遇したことがある方もいらっしゃるかと思います。
それは膝蓋大腿疼痛(patellofemoral pain: PFP)と思われるのですが、未だエビデンスや治療、リハビリ、リスクについて、日本語で書かれている文献が少なく、クリアではないと思うので今回はこのテーマで書きたいと思います。
また11月まではPFPSに注目して、病態考察、トリートメント、リハビリ、予防くらいに分けて配信していきたいと思います。
PFPSについてはお試しということで、無料公開していますので、ぜひ最後まで読んでみてください!
それでは今回はまず病態考察からしていきたいと思います。
今回は
『Drew, B., Redmond, A., Smith, T., Penny, F., & Conaghan, P. (2016). Which patellofemoral joint imaging features are associated with patellofemoral pain? Systematic review and meta-analysis. Osteoarthritis and Cartilage.』
『Forelli, F,. & Traullé, M. Lower Limb Kinematics Factors in Patellofemoral Pain Syndrome. International Journal of Physical Therapy and Rehabilitation.』
『Mullaney, M. J., & Fukunaga, T. (2016). CURRENT CONCEPTS AND TREATMENT OF PATELLOFEMORAL COMPRESSIVE ISSUES. The International Journal of Sports Physical Therapy.』
『Petersen, W., Rembitzki, I., & Liebau, C. (2017). Patellofemoral pain in athletes. Journal of Sports Medicine.』
を参考にPFPの病態を見ていきましょう。
それではいきましょう!
1. 概要
PFPは膝関節前方エリアの疼痛において使用される用語となってます。
一般的なクリニックに来る患者全体の11–17%がPFPに何らかの関係があるとされています。
PFPだけに関わらず、膝蓋大腿関節の異常(疼痛だけでなく、機能障害なども含む)を訴え整形外科に来院する患者は膝の外傷の25%になり、膝蓋大腿関節の異常はメジャーな悩みとなっているそうです。
特定の傷病がない膝関節前方エリアの疼痛発現を膝蓋大腿疼痛症候群(patellofemoral pain syndrome; PFPS)といい、PFPSと診断される数は膝関節の傷病の6.8%で膝関節の傷病では最も多いとされています。 他には、シンディングラーセンヨハンソン病(4.8%)、オスグッド(2.5%)、滑膜ヒダ症候群(2.3%)となっています。
年間、男性で3.8%、女性で6.5%がPFPSを発症していることが報告されています。
また、予後が悪いことが報告されており、トリートメントプランが確立されていない点との指摘がなされています。
予後の良いトリートメントプランは膝蓋大腿関節の骨・軟部組織の解剖学をしっかりと考慮されていることも同時に指摘されています。
統計的には25%のアマチュアアスリートがPFPによる影響で一時的なスポーツ活動の中断をしています。
成人のバスケットボール選手の810人を対象とした研究では25%がPFPSの症状を有し、性別で見てみると、女子選手は26%、男子選手は18%がPFPSの影響を受けていたそうです。
急性外傷によるPFPの発症より、関節構成体の機能不全、主に膝蓋骨への圧迫負荷がキーポイントとなるようです。
圧迫負荷の上昇によって滑膜ヒダ、ホッファ脂肪体、膝関節支帯*、関節包、膝蓋靭帯での疼痛発現が見られています。
(膝関節支帯*[Retinaculum]: 絵の白く描かれている部分。)
特に階段昇降、ジャンプ、ランニング、スクワットなどの運動時、膝蓋骨への負荷が高くなると報告されています。
さらに上記の動作中に、膝蓋骨縁もしくは膝蓋骨大腿骨側面への疼痛発現はPFPの診断において、重要な所見になります。
他には、膝蓋骨縁の圧痛がPFPの71〜75%で見られることも特徴的で、診断時に確認が必要です。
また、補足的な症状として、膝関節屈曲時のジョイントライン周辺のクレピタス*の出現や膝蓋骨大腿骨側面の圧痛、膝蓋骨周辺の中程度の浮腫といった症状もPFPで見られることがあります。
(*クレピタス:ミシミシやジャリジャリという軋むような関節雑音。)
また膝関節の可動域は正常なことが多く、膝蓋骨の可動性の低下もエビデンス上では関連は見つかっていません。
PFPではいくつかのスペシャルテストを行い、包括的に診断をすることが必要ですが、PFPとスクワット中の疼痛発現において強い相関が核にされています。
クレピタスの触知や、膝蓋骨の静的不安定性を確認するアプリヘンションテストの精度は低いことが報告されているので注意が必要です。
変形性関節症、軟骨・骨軟骨の損傷、腱炎、膝蓋骨の不安定性など膝関節に関わる構造の変化はPFPに何らかの影響を及ぼすとされています。
しかし、膝蓋骨の脱臼や亜脱臼の既往があり、PFPの症状がある場合は膝関節のバイオメカニックスが変わっている可能性があり、膝関節や膝蓋大腿関節を精査する必要があるので、注意が必要です。
また、オーバーユースや骨・軟骨の損傷の既往がある場合も同じとしています。
PFPSは膝関節前方の疼痛原因として、特に膝関節の異常がない若年層のアスリートによく見られます。
また、最近のシステマティックレビュー•メタアナリシスによって、この関節に異常がない若年時のPFPSの既往が、その後の変形性膝関節症の発症に起因している可能性が示唆されています。
Kiyo「つまり、若年層のPFPSは将来的に、関節構造に異常をきたす可能性があるという事ですね。」
2. 病態生理学
2.I. 膝蓋骨のマルトラッキング*とPFP
PFPの有無に関わらず、微細な軟骨や骨髄の損傷が見られることから、MRI上での膝蓋大腿関節の軟骨に異常があったとしてもPFPとの関連は低いとしています。
(*マルトラッキング:適正でない方向への牽引。膝蓋骨の場合、上方向へ大腿四頭筋によって引っ張られるが、それ以外の方向への牽引力が働く事。)
システマティックレビュー•メタアナリシスによって、PFPの膝蓋大腿関節の画像初見からbisect offset*、patellar tilt**の増大、荷重下・非荷重下におけるcongruence angle ***の増大に関する特徴が挙げられています。 これらは膝蓋骨のマルトラッキングを示す値とされており、PFPとの強い相関が示唆されています。
(*bisect offset:AB、EFを基準にCDの直線からなるCDE角。)
(**patellar tilt:ABからなるB角。)
(***congruence angle:BCから構成されるA点にそれぞれのラインDとラインOを繋げてできるDAO角。)
bisect offset、patellar tiltの増大は荷重時に顕著に見られ、PFPS患者は外側偏位が見られる特徴が挙げられます。
Kiyo 「さらに外側膝蓋大腿軟骨の損傷がPFPでは見られるため、やはり外側変位がキーポイントなるようです。」
2.II. 動的外反性
大腿四頭筋は膝蓋骨の外側変位に関わることが分かっています。
大腿四頭筋のベクトルの静的評価としてQアングルがあり、正常値平均は13.5±4.5°(18〜35歳)とされています。
PFOA患者のQアングルの増加は膝蓋大腿関節の不安定性が見られますが、若年層のPFPと膝蓋大腿関節の不安定性の関連性は現段階ではあまり見られません。
これについては、関節構造の破綻から発症していないタイプのPFPだと推察されます。
Kiyo「つまり、若年層のPFPでは関節の構造には問題が無く、他の軟部組織や関節、骨に原因があることが多いという事ですね!」
ランナーのPFPにおいてはランニング中に膝関節外反が起きる事との関連が報告されています。
中学高校生の女子バスケットボール選手ではPFPの発症と患側の股関節の内転モーメントと膝の外転モーメントの増大が見られ、PFPSでも患側の股関節の内転モーメントと膝の外転モーメントの増大が見られ、女性のPFPでは股関節の内旋モーメントの増大が確認されています。
これらの結果から、膝蓋大腿関節の構造的破綻のないPFPにおいては下肢関節のマルアライメントが主な原因と考えられます。
またこれらの現象は女性に多く見られることから、女性の発症率の高さに関連していると推察されます。
MRI上で女性のPFPS患者は大腿骨の内旋による膝蓋骨外旋が起きることが報告されています。
Kiyo「つまり、大腿骨内旋によるPFPSの場合があって、それを治さないといけないこともあるという事ですね!」
ワンレッグ・スクワットは動的外反性をチェックするテストとしての有用性が示されています。
テストのチェックポイントとして、パフォーマンス中に股関節の外転が保たれ、臀筋郡の出力がよくできていることが挙げられます。
ワンレッグ・スクワット:両手を胸の前でクロスさせ、5回片足でスクワットを行う。
評価基準;バランス、体幹の姿勢、骨盤の角度、股関節外転、膝関節外反
評価;優、可、不
3. 筋の機能不全
筋のアンバランスはPFPにおいて強いエビデンスが示唆されています。
3.I. 股関節屈曲筋群
股関節屈曲筋群の筋力向上がPFPの疼痛制限との関連が報告されています。
PFPでは健測と比較し患側の大腿四頭筋の20〜30%の筋力低下が報告されていますが、機能不全と膝蓋骨の変位への関連性については未だ不透明で、PFPにどのような影響があるかはまだ明確になっていません。
しかし、外側広筋と内側広筋斜頭のアンバランスな筋力発揮において関連性が確認されています。
また、大腿四頭筋と腸腰筋のタイトネスが見られ、特に大腿四頭筋の短縮が報告されています。
そのため、トーマステストやエリーテスト(Ely’s test)などで確認が必要です。
3.II. 臀筋群
機能不全は股関節外旋力の低下を招くことからPFPの発症に関連が見られます。
女性のPFPを対象としたシステマティックレビュー•メタアナリシスでは股関節の外旋、外転、伸展筋力の低下において強いエビデンスが確認されています。
さらにPFP患者では健常者と比べ、最大で67%の伸展筋力の低下と、33%の外転筋力の低下が報告されています。
臀筋群の機能不全がある場合、下肢のマルアライメントは股関節が起因となることが多数報告されており、最終的に膝蓋骨の上方変位の起因、それに伴う膝反張による、大腿四頭筋が過伸張となることが明らかとなっています。
ドロップジャンプ着地時に股関節外旋筋群が膝の動的外反性の制御に関わっている事から若年層のPFPS患者ではチェックすることが必要となります。
3.III. 大腿筋膜張筋・腸脛靭帯
カプラン繊維が腸脛靭帯から膝蓋骨外側へ付着するため関連性があるかもしれませんが確定的なエビデンスはまだ見られません。
しかし大腿筋膜張筋及び腸脛靭帯のタイトネスとPFPの関連が示唆される論文はあるため、補足的におバーテスト(Ober’s test)などでの確認は必要かもしれません。
3. IV. ハムストリング
ハムストリングのタイトネス、外側ハムストリングの内側ハムストリングより早い筋発揮、*ハムストリングもしくは大腿四頭筋の筋発揮時に同時にその一方の筋発揮もされることなどがPFPSとの関連性があるとしています。
*ハムストリングを使う時に、大腿四頭筋も収縮してしまう。また、大腿四頭筋を使う時にハムストリングの収縮も起きてしまう。
また、横断研究ですが、PFP患者はハムストリングのタイトネスにより、脛骨近位の後方変位が起き、結果的に膝蓋骨への圧迫負荷が上昇することも報告されています。
4. 足部機能不全
歩行時の踵接地時の後足部の外反、扁平足は脛骨内旋要因になる事からPFPSとの関連性が示唆されています。
また、高校生のPFPを対象とした研究では足部の舟状骨の下降、側方変位、前足部の外転が確認されています。
Kiyo「要は、足が外を向いて歩いてるやつですね!舟状骨の下降は Navicular Drop Test で確認出来るので、調べてみて下さい。」
5. 心理的要因
多くの研究があるわけでは無いですが、いくつかの研究で疼痛レベルの上昇、PFPによる心理的ストレスの上昇、PFPの疼痛による身体活動中の逃避行動についての報告がされています。
6. PFPの疼痛の神経生理学
明確な疼痛発生位置の特定はまだ出来ていませんが、PFPを対象とした、皮下麻酔下の内視鏡検査では、膝関節支帯、ホッファ脂肪体、滑膜に強い疼痛が発現しました。
また、上記の組織中で、疼痛に関与するタンパク質と神経細胞増殖因子の発現が確認された事から、膝関節支帯への神経分布が関与しているのではないかとされています。
さらに、ホッファ脂肪体は多くの感覚神経の分布が確認されているので、PFPとの鑑別が必要です。
7. まとめ
PFPは関節自体の問題というより、膝関節を中心に上下の関節を含む複合的な問題によって発症すると考えるべきということが、お分かりいただけたかと思います。
未だ、追加研究が必要なものの、筋力やタイトネス、それに伴う下肢のマルアライメントなどに着目することが必要かと思います。
僕の経験したPFPSでも下肢のマルアライメント、臀筋群の筋力低下などは多く見られたので、その辺にも着目して、リハビリ編などでお話しできればと思いますので、そちらも参考にしてみてください!
次回はPFPSのトリートメントに注目した記事を書くので、そちらもよろしくお願いします!
また僕個人でもブログをやっているのでぜひお試しください。
こっちでは僕の経験や英語学習を主に書いてます。
Dive into EBM, Beyond the Limits.
BORDERLESS - Kiyo-
参考文献
Drew, B., Redmond, A., Smith, T., Penny, F., & Conaghan, P. (2016). Which patellofemoral joint imaging features are associated with patellofemoral pain? Systematic review and meta-analysis. Osteoarthritis and Cartilage, 24(2), 224-236. doi:10.1016/j.joca.2015.09.004
Forelli, F,. & Traullé, M. Lower Limb Kinematics Factors in Patellofemoral Pain Syndrome. International Journal of Physical Therapy and Rehabilitation, Graphy Publications, 2020, 5 (1), pp151.10.15344/2455-7498/2019/151.
Mullaney, M. J., & Fukunaga, T. (2016). CURRENT CONCEPTS AND TREATMENT OF PATELLOFEMORAL COMPRESSIVE ISSUES. The International Journal of Sports Physical Therapy, Volume 11, Number 6, 891-902.
Petersen, W., Rembitzki, I., & Liebau, C. (2017). Patellofemoral pain in athletes. Open Access Journal of Sports Medicine, Volume 8, 143-154. doi:10.2147/oajsm.s133406.