店は最高のメディア
日本一のターミナル、JR新宿駅の東口改札から徒歩15秒の立地にある大衆飲食店「ビア&カフェ ベルク」。さまざまな大手チェーンがひしめき合う環境下にあって、無名の小さな個人店に一日平均1500人以上ものお客が訪れます。
「お客さまに気持ち良く商品をお買い求めいただくのが、商売の目的というよりも醍醐味ですね。買物という行為自体が、お客さまにとって日常におけるささやかな晴れ舞台です。それをいかに演出するかが私たちの役目であり、腕の見せどころ。そこに醍醐味を感じなければ、商売をやる意味がない。利益は結果としてついてきます」
経営者であり、最前線に立つ井野朋也店長は言います。個人店が生き抜くために大切なこと――ベルクから教えてもらいました。
店内にはメニューのPOPや月1回発行のフリーペーパー「ベルク通信」が柱をぐるりと囲うように貼られています。「POPをたくさん貼れば貼るほど、客数も売上げも伸びた」(井野さん)そうで、素材に対する熱い思いが記されています。ベルクは冗舌な店です。
奥まった場所に店があるため、オープン当初は呼び込みを行うなど、店の存在を認知してもらうまでには苦労がありました。このため以前から通路に文字看板を設置し、コーヒーと生ビールを提供していることを伝えていました。伝わらなければ存在しない――これは販促の原則です。
ベルクでは店内の壁を使用し、月替わりで写真などの展示を実施しています。若い写真家やアーティストにとって、格好の発表の場になっています。写真の椅子は、もともと木のオブジェを作る造形作家の作品でしたが、あまりにも店になじんでいるため永久展示にしたもの。
濃いブルーに鮮やかな色の商品写真が目を惹くカラーコルトン。ここに使用している商品写真は副店長の迫川尚子さんが撮影したもの。食品にブルーを使うのは一般的には良くないとされていますが、ベルクの味の基礎をつくったと言われるメニュー開発コンサルタントの押野見喜八郎さんの強いアドバイスで、この色を選びました。
店内にいつも飾られている生花の装飾は、副店長の迫川尚子さんのお母様が担当。多摩川の河川敷で摘んでくる野の花や、友人の庭で栽培している花などが中心で、季節の変化を感じさせてくれます。あえて生花を選ぶところにベルクらしい、おもてなしの気持ちが込められています。
壁に向かって設置してあるカウンターテーブルは今でこそ多くのお客に利用されていますが、立ち飲みスタイルが定着するまでには数年間かかったといいます。椅子を置いたほうがよいのではないかと何度も話し合いを重ねたものの、「店の迷いがお客さまに伝わると、信頼を失い、定着するものもしなくなる」と、このスタイルを貫きました。