
個人店が生き残るには?
JR新宿駅東口の改札を出てすぐ左、徒歩15秒のところに、一日におよそ1500人超が訪れ、60万円超の日販をあげる超繁盛店があります。大手チェーン店がひしめく日本一の激戦地にあって、たった15坪の小さな個人店、ビア&カフェ ベルクです。
ファーストフードのセルフサービス店である同店が追求するのは非常にシンプルで、早い(高回転)、安い(低価格)、うまい(高品質)の三拍子。しかし、互いに矛盾するこれらを実現し、維持していくのは容易ではありません。
店長である井野朋也さんが記した『新宿駅最後の小さなお店ベルク』では、その難しさと一つひとつ向き合ってきた試行錯誤が明かされています。長期熟成――これがキーワードです。
筆者は「個性的であろうとしてはいけない」として、「どれもこれも手を抜かずに維持するには、相当の覚悟と熟練を要するのです。つまり、時間をかけて熟成される。それが『どこにも真似できない』本当の個性になっていく。私はそれをひそかに『店に魔法をかける』といっています」(28ページ)と記しています。
たしかに、同店の人気メニューを構成するコーヒー、パン、ソーセージも、人材も、メニューも、顧客との関係も、時間をかけて熟成されてきたことは、同店を訪れればわかります。以前、井野さんはこう語っていました。
「お客さまに気持ちよく商品をお買い求めいただくのが、商売の目的というよりも醍醐味ですね。買物という行為自体が、お客さまにとって日常におけるささやかな晴れ舞台です。それをいかに演出するかが私たちの役目であり、腕の見せどころ。そこに醍醐味を感じられなければ、商売をやる意味がない。利益は結果としてついてきます」
本書『新宿駅最後の小さなお店ベルク』には、井野さんが四半世紀に及ぶ実体験を通じてつかんだ、小さな店が生き残っていくうえで大切なことが記されています。小さなお店に生きる人に読んでほしい一冊です。
そしてベルクを訪れてください。偶然、お会いできるかもしれません。