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他社の利
令和もすでに7年。昭和は100年を数え、平成も遠くなりました。
その平成元年(1989年)、日本は経済の絶頂にありました。世界時価総額ランキングの上位10社のうち日本企業が7社を独占。しかし今日、上位50社を見ても日本企業は下位で後塵を拝しています。もちろん、時価総額の大きさだけが企業の価値だと言うつもりはありません。
一方、同じ年に台湾で小さな書店が産声を上げました。15年にわたり赤字を出しつづけながらも、創業者は「善、愛、美、学び」という人生に対する理念の追求をやめませんでした。その企業とは「誠品書店」、創業者とは呉清友。今では「世界で最もクールな書店のひとつ」と呼ばれ、日本にも出店をしています。
では、創業者が保ちつづけた志とは何なのでしょうか。彼の生涯と誠品の創業から今日をつづった『誠品時光』にこうあります。
「よき経営者は、事業の根幹が社会の有益性の上に構築されるものであり、企業の存在が他者にベネフィット(利益)のあるものでなければ、長く存続させられないことを知っている。このため、企業が語る“利”とは、哲学的なレベルでの“他者への利”であり、経済的なプロフィット(利潤)だけで語ることはできない」
呉清友はさらに続けます。「もしどちらか一つだけを優先させるのであれば、まずは“他者の利”、つまりまず社会に利することを考えなければ、企業は心安らかに利潤を得ることはできない」。
倉本長治はそれを「店は客のためにある」と表現しました。利他であること、それこそ永続経営の神髄なのです。