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『私、食虫植物の奴隷です。』(木谷美咲・著 水曜社)

『私、食虫植物の奴隷です。』(木谷美咲・著 水曜社)

食虫植物マニアの世界に飛び込んだ9年間を綴ったエッセイ、食虫植物狂想曲です。


目次

【栽培編】狂おしくも楽しい食虫植物との日々

・ホームセンターで入手しやすい5品種の栽培方法

ハエトリソウサラセニア/ウツボカズラ/モウセンゴケ/ムシトリスミレ

・虫を食べる植物がなぜこんなに魅力的なのか

・ラベルを探して三千里〜園芸ラベルの悲劇1

・水槽でウツボカズラを育ててみる

・われこそは食虫植物ベランダー

・恐怖のきな粉まぶし〜園芸ラベルの悲劇2

・種から育てて、ドロソフィルム長者に?

・天国と地獄~食虫植物の花畑の中で

・食虫植物を美しく植える?〜雑誌連載1

・マダムと食虫植物と私〜雑誌連載2

・ピグミーモウセンゴケ〜蘭鉢の悲劇

・二又のシスティフロラが咲く

・私の用土修業時代

・園芸VS栽培

【交流編】マニアと、愛する食虫植物に囲まれて過ごした日々

・尾瀬ナガバノモウセンゴケ〜野生の姿をさがして1

・赤城山ムシトリスミレ〜野生の姿をさがして2

・茨城県ミミカキグサ&インベーダー〜野生の姿をさがして3

・栃木県渡良瀬遊水池ナガバノイシモチソウ〜野生の姿をさがして4

・命がけの雲竜渓谷「コウシンソウ」探索

・石垣島、幻のコモウセンゴケ

・オーストラリアの自生地と狂さんの涙

・狂さんの屋上廃墟庭園〜食虫植物マニアのお宅訪問1

・酒室さんのマニア魂〜食虫植物マニアのお宅訪問2

・モウセンゴケの館でキメラ誕生〜食虫植物マニアのお宅訪問3

・走れ! ALSK〜食虫植物マニアのお宅訪問4

・謎の美人女優のお誘いで、食虫植物の館へ

・日本食虫植物愛好会VS食虫植物研究会

・すすめ! マニア道

・即売会攻防戦

・『大好き、食虫植物』後、東海食虫植物集会へ〜東西マニア合戦

・サラセニアの海に溺れたい~伊勢花しょうぶ園

・ハエトリソウの生産農家、野々山園芸を訪ねて

・サラセニア牧場発「サラセニア劇場」

・食虫植物の聖地、兵庫県立フラワーセンターへ

・ウツボカズラ飯〜食虫植物を食べてみる?1

・炎天下の天ぷら〜食虫植物を食べてみる?2

・食虫人間にメタモルフォーゼ〜食虫植物を食べてみる?3

・一日限定の「SEMI BAR」〜食虫植物を食べてみる?4

・前菜はウツボカズラ〜食虫植物を食べてみる?5

・Iさんの『大好き、食虫植物』

試し読みです。

あれは9月のはじめ。汗のしたたる暑い日でした。

 またもや食虫植物を料理することになったのです。今度は、ウツボカズラ飯だけではなく、ウツボカズラとモウセンゴケの天ぷらというオリジナルメニューまで、引っさげて。

 ウツボカズラ飯の記事を見た番組から連絡があり、野草のアウトドア料理を得意にされている俳優の岡本信人さんと一緒に食虫植物の料理を作ろうということになったのです。

 いいんですか、岡本さん! ウツボカズラやモウセンゴケは野草といえなくもないですが、野草と言い切ってしまうのもアレな感じがしますよ、と私は思ったのですが、岡本さんはきっと「いいですよー」と言ったのでしょう。決行と相なりました。

 朝8時にロケ地の公園に行き、岡本信人さんとご挨拶しました。 はじめてお会いする岡本さんは、もの静かでひょうひょうとした雰囲気とは裏腹に、肌がつやつやとしていました。

 それから、ヨネヤマプランテーションに行き、岡本さんと食虫植物の初対面を果たし 、お昼くらいに、数少ない食虫植物の専門業者である、大谷園芸さんに移動しました。大谷さんのお庭をロケ場所にお借りしていたのです。

 庭でアウトドアクッキングをするのです。

 まずは、ウツボカズラの消化液の試飲です。

 ウツボカズラの袋にストローをさして、ちゅーっと飲みます。

 青臭くて、あまり美味しくありません。少し油っぽさもあり、予想していた酸味はありませんでした。

 お次は、モウセンゴケを生で試食です。

 モウセンゴケ栽培の名人、中村さんからいただいた無菌培養のカペンシスを培養瓶からピンセットで取り出しました。

 「生で食べたら面白いんじゃないですか?」

 名人直々の提案でありました。

 まあ、育てた方がそう言って下さるのなら。

 でも、なぜか不思議なことに、ご本人はこの場にはいません。

 「皆さんで、どうぞ食べて下さい」と笑いをこらえた顔で去りました。

 岡本さん、大谷さん、私で、いっせいので、生のモウセンゴケを食べたところ、

 「辛い!!」

 と全員で叫びました。 

 生のドロセラ・カペンシスは、後味がとても辛かったです。揮発性の辛味で、貝割れ大根の辛味によく似ています。

 お次は、ウツボカズラ飯です。蒸し時間が短かったのか、固く炊けてしまいました。 というか、明らかに生米でした。

 しかし、岡本さんは、躊躇なくモリモリ頬張り、「旨い」と親指を立てていました。すごい方です。

 お待ちかねの天ぷらは、必ず油の温度が170度でなければならないそうで、アウトドア用でかつ火力の強いコンロを使用しています。

 手慣れた手つきの岡本さん。 気泡がはぜる高温の油に投入されるネペンテス・ダイエリアナ。ダイエリアナが鍋の中でくるくる回転します。

 なんてシュールな絵なんでしょうか。

 思えば、夢の島熱帯植物園でネペンテス・ダイエリアナをはじめて見て、「この世にこんな面白い植物があるなんて」と衝撃を受け、その魅力に引き寄せられるように、大人買いをしたのでした。

 それを今は揚げてしまっているのです。一寸先はどうなるかまったく見えない。

 正直、なぜ食べているのかもよくわからないのです。

 ウツボカズラがからりと揚がったところで、岡本さんが「はいよ」と皿に載せてくれました。はじめて食べるウツボカズラの天ぷらの味は、肉厚で、さくさくしていて、ほんのり酸味があり、すごく美味しいです。

 「こんなに美味しいんですね」 と言ったところ、

 「エッ。……今日はじめて食べたような口ぶりじゃないの」

 岡本さんは完全に硬直していました。



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