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珍味⑧ 山のヘビ、海のヘビ、イラブー

奇しくも、マムシやシマヘビを食べたのと同時期に、ウミヘビも食べる機会がありました。

 山と海のヘビ、両方と相見えることになったのです。

 ヘビは神の使いといいますから、海の神と山の神を胃袋におさめてしまっていいものか、逡巡するところでもありますが、せっかくの機会は逃したくはありません。

 しかし、両方とも「ヘビ」といいますが、その味は驚くほど違うのです。

 マムシを食べたのと同じ年に、沖縄の石垣島に永田洋子さんの取材に同行し、摘み草料理の店で食べました。エラブウミヘビ(イラブー)は、琉球の伝統料理として古くから食べられている食材なのだそうです。ちなみに、エラブウミヘビは猛毒で、ハブよりも強い神経毒をもっているのだそうです。東南アジアを中心とした海域に生息し、沖縄の人に聞いたところ、泳いでいる時に見たことがあるとの話を聞きました。

 私も子供の頃に伊豆の海を水中メガネをかけて泳いでいた時に、ウミヘビが泳いでいるのを目撃したことがあり、あまりの恐ろしさに戦きました。体は細く長く、泳ぐスピードも速く、魚とはどう見ても違う泳ぎ方で、慌てて陸に戻ったものでした。何の種類かはいまだにわかりません。

 マムシ同様に危険生物ではありますが、それを食べる人間の業とはいかに。

 数年前の昼下がり、道路の排水溝から逆流した水が噴き出すほどのスコールに追われるように、タクシーで摘み草料理屋に飛び込み、誰もいない広い座敷に通されました。琉球宮廷料理と看板があるだけあって、定食屋ではなく料亭のような造りです。

 琉球宮廷料理のコースが一通り終わり、最後に出されたウミヘビは、昆布とニンジン、大根、シイタケ、豚の皮、鶏肉、ピーナッツと一緒に浮かんでいました。沖縄料理の煮物の中に、のほほんと参加しているウミヘビ。

 タイヤのチューブのような愛想のない外見、表面に見える鱗。それを、箸でもちあげて、おそるおそる齧りついてみました。

 

 齧って、すぐに、身欠きニシンに味が似ていると思いました。身は脂が抜けて、ほろほろっと崩れ、青魚のコクと渋みが口中に広がります。マムシが、ホルモンのように脂っこく、弾力があり、噛みごたえのある肉質だとしたら、ウミヘビは枯れた味わいです。端的に言えば、見かけとは裏腹に淡白なのです。皮の部分は、やや硬く、噛みしめると、皮の内側が、ゼラチン質でフグやアンコウの皮に似ています。

 しかし、骨が多く、食べても食べても、小骨に当たります。骨を吐き出すと、見慣れた魚の骨ではなく、ぐっと湾曲した骨の形で、

「ああ、ヘビを食べているんだ」と改めて、実感しました。

 そして、食べているうちに、誇張表現ではなく、肌からぷつぷつと汗が噴き出してきました。スコールに濡れて体の芯が冷えていたのが、内側から熱く、のぼせるほどです。

 差し向かいの永田さんが、ふふと微笑みました。

 マムシ同様に、ウミヘビも滋養強壮、強精効果があるといいますが、食べているそばから、目に見える効果があるのは、おそろしくもあります。

 枯れた味わいと思いきや、イラブー(ウミヘビ)料理の多くは、乾燥して燻製にし、戻して使うのだそうです。それで、身欠きニシンに似た味わいがしたようなのです。

 後日カベルナリア吉田さんの著書『沖縄ディープインパクト食堂』を読んだところ、生イラブーを使ったイラブー汁のことが書かれていたので、ぜひ試してみたいと思っています。

イラブーが私を呼んでいるのか、二回目の機会は、石垣島でのイラブー汁からそう遠くありませんでした。その、およそ四ヶ月後のレプティリアン(爬虫類人間)の会で、<※われこそ爬虫類人間だと思う人間が、爬虫類などを食べる会>イラブー汁がふるまわれたのです。

 しかも、お手製のイラブー汁といいます。

 イラブーを取り寄せて、丸一日ラーメンのスープを作るがごとく、ことこと豚の皮といっしょにイラブーを煮込んだ逸品です。

 

 爬虫類人間の会なので、潔く野菜はナシ。味はというと、石垣島で食べたイラブーとほぼ変わりはありませんでしたが、比べて、ややこってりとしていたくらいです。豚の皮の脂がしみ込んだのかもしれません。血合いも、コクと渋みがあり、奥行きのある味です。またもや小骨に苦戦し、行儀悪く吐き出しながら完食しました。この時は真冬だったので、体が芯からあたたまり、血行が良くなるのも感じました。

 「山の神様と海の神様、どちらが美味しかったか」、結論は、乾燥したイラブーではなく、生イラブーを使ったイラブー汁を食べる機会を得てからにしたいと思います。

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