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めずらしい味

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イラブー、ウツボの味噌煮、亀の手、ワケノシンノス、山羊汁、ウツボカズラ飯、穴ジャコ、カラクッコ…珍味を巡るエッセイです。
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#食べ物日記

珍味⑩ がん漬けと「クラブ・ヴィオロニスト」

珍味⑩ がん漬けと「クラブ・ヴィオロニスト」

杉浦日向子さんの掌編小説集『ごくらくちんみ』に 「がん漬け」という珍味が紹介されています。

『ごくらくちんみ』は、オリーブやたたみいわし、カイコ、ふぐ白子、くさや、うずらピータンなど全68種の珍味が取り上げられ、ひとつの珍味につき、一本の掌編小説に料理されています。すなわち、68本の掌編小説からなります。

一本はごくごく短いのですが、一話完結で、男女の話であったり、親子の話であったり、珍味を

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珍味⑧ 山のヘビ、海のヘビ、イラブー

珍味⑧ 山のヘビ、海のヘビ、イラブー

奇しくも、マムシやシマヘビを食べたのと同時期に、ウミヘビも食べる機会がありました。

 山と海のヘビ、両方と相見えることになったのです。

 ヘビは神の使いといいますから、海の神と山の神を胃袋におさめてしまっていいものか、逡巡するところでもありますが、せっかくの機会は逃したくはありません。

 しかし、両方とも「ヘビ」といいますが、その味は驚くほど違うのです。

 マムシを食べたのと同じ年に、沖縄

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珍味⑦ シュールストレミングの悪臭と豊潤

珍味⑦ シュールストレミングの悪臭と豊潤

発酵錬金術師こと、発酵学者、 農学博士である小泉武夫さんの著書『奇食珍食』、『くさいはうまい』や『不味い!!』に、たびたび登場する

シュールストレミング。

スウェーデン産の塩漬けニシンの缶詰なのですが、強烈な悪臭から、現地では河原で開封しなければならない、風上で開けてはいけない(風下に人がいないことを確認)、周囲50メートルに人がいないことを確認しなければならない、などのルールがあるとか、「世

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珍味④ 見てはいけない唐墨(カラスミ)

珍味④ 見てはいけない唐墨(カラスミ)

子供の頃のある夕暮れ時、夕陽が差し込み、薄暗くなったリビングに、

何の用事があったのか、ふらりと足を踏み入れると、大テーブルの隅に祖母が座っているのが

目に入り、ぎょっとしました。

電気もついていないから、誰もいないものだと思っていたのに、暗い中に祖母がいた時の、ひやりとした気持ちときたら。しかも、手に包丁をもっていたのです。

台所でもないのに。

見てはいけないものを見た気がして、踵を返

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珍味③ 黄金色の至宝。とろりと甘い海の味、雲丹(うに)

珍味③ 黄金色の至宝。とろりと甘い海の味、雲丹(うに)

一度でいいから洗面器いっぱいに食べたい。いつもそう思うのが、ウニです。

洗面器にとびきり新鮮な、ピンとしたウニをなみなみと入れて、木のスプーンで

掬っては食べたい。

「気持ち悪い」と必ず言われるのですが、いーや、食べたい。

それで、食べ過ぎて本当に気持ち悪くなって、二度と食べたくないって思うんだろうなぁ。

まるで私の人生を象徴しているようです。

そもそも、子供の頃に大量のシシャモを食べ

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珍味① フィンランドの伝統料理 カラクッコ

木こりのお弁当というと、何を想像しますか。

私の中で「木こり」のイメージは、C.W.ニコルなのですが、

大柄で、髭が生え、オーバーオールを着て、帽子を被った男性

腕は太く、指は節くれだって、手の甲に毛が渦巻いているイメージ。

斧を地面に突き立て、首にかけたタオルで汗を拭き

切り株に腰を下ろして、食べるもの。果たして、何がぴったりでしょうか。

日本人なら、竹の皮に包んだおにぎり。

でも

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