ナユタの翼
鯨見の丘にのぼって、入り江を見おろせば、
海は炎に包まれて、鋼鉄の鯨が炎を立ち上げている。
空を埋め尽くす閃光は、美しいけど花火じゃなくて、
他の銀河のはじけちる、最期のすがたなのだ。
僕は、君は、それに、
君が胸に抱くちいさな子犬は、くずれゆく世界の上で、
なすすべもなく、くずれゆくのだ。この世界とともに。
僕たちに足りないもの。
それさえあれば、僕たちは助かったかもしれないのに。
何を僕たちは知るべきだったのか。
それさえわかれば、この子犬を救う事ができたかもしれないのに。
今、くずれゆく大地とともに落ち続ける、
僕たちの背中にたとえ翼が生えたとしても、
もうこの死んでしまった世界では僕たちは生きてはゆけないのだ。
あるいはその翼が、
時空のつながりさえも飛び越える、ナユタの翼であれば、
僕たちの生まれる前、ずっとずっと昔へと飛んでゆき、
僕たちに足りなかったものをえることができたのかもしれない。
僕たちが知るべきだったことを学べたのかもしれない。
今、くずれゆく大地とともに落ち続ける、
僕たちの背中に
ナユタの翼があれば。
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