大草原花魁道中


 鈴の音、風の音、蹄の音。

 草の海渡る、麗人の群れ。

 装飾過多の斑馬

 その背の鞍は御輿様

 

 我見たり。

 かつて見ぬ輝かしき女、

 御鞍の上にありしを。

 その面、眩しきほどに白く、

 紅き唇まことに静やかにして、

 遠く見つめる瞳の奥深さ。

 美しき女なり、されど、悲しき女なり。

 鈴の音、風の音、蹄の音。

 黒髪に虹の簪、

 遥か蒼穹に映え、

 金襴、銀襴、錦の緞子、

 風の草原に妙麗なる女。

 女は花魁、色町の女。

 せむしの女衒の引く手綱、

 燃え尽く遊廓の噂、

 遠き辺境の風にも聞かぬではなし。

 我は牧童、羊飼い。

 鞍もなき野馬の背にまたがり、

 我が背につかまる乙女は十五、

 ともに連れ立ち、遠乗りのさなか、

 遥か草原に幻のごとき行列を見たり。

 風の音、風の音、蹄の音。

 麗人の旅団は夢のように、

 ゆるゆると静やかに、

 我らが前より、行きすぎたり。

 《あれは何?》

 背に寄り添う少女の声は、

 熱き振動となりて、

 我が体の内を揺さぶれど、

 我が心に浮かぶは、

 美しきあの女の面影のみなり。

 《あれは幻?》

 《幻ではない。大草原の・・・花魁道中》

 《大草原花魁道中・・・》

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?