砂場と瞬間の思い出
あの日、僕は弟と見知らぬ団地にいたんだ
お母さんは用事があって
僕は弟と一緒に団地の公園で遊んでいたんだ
でも、僕らは時を忘れて遊んでいたので
気がついたらむこうのほうでお母さんが呼んでいて
僕らは行かなくちゃならなかったんだ
弟は砂場で灰色の砂粒たちと、一生懸命に遊んでいた
弟はとてもとても楽しそうに、一心不乱に遊んでいた
弟はこのうえなく愉快な顔で、無我夢中に遊んでいた
なのに、お母さんは遠くから僕らを呼んでいて
それに弟はまったく気づいていなかったんだ
ぼくはどうすればいいかわからなかった
かわいそうだったんだ
だって、ここで弟の遊びをやめさせることは
とてもかわいそうだったんだ
この無垢な笑顔をやめさせるってことは
もう、とてもつらいことだったけれど
それよりもなにも
もう絶対に訪れないこの団地の
もう二度と遊べないこの砂場の
もうあることのないこの瞬間の
この弟の至福のたのしみを
その永遠を、断ち切らねばならぬという事が
こらえようもなく切なかったんだ
同時に、僕がそのひと声をかけねばならぬという事が
なによりも悲しかったんだ
もうひとつ、切なくて悲しいのは
あのころの純粋でけがれのない
うつくしい瞬間の小さな魂のわななきを
僕はどこかに置き忘れてきてしまったんだって事に
気づいてしまった事かな
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