チャネリング博士
1
わしはエスパーの馬場ひでざえもん博士である。
これこれ、見回しても誰もおらんわい。
テレパシーで君の頭に直接話しかけておるのだ。
わしはいま、薄暗い自分の研究室で。
新しい発明品の実験をしておるところである。
もし君がいま部屋に一人でいて、
なにもかもが厭になって、
だれもかれもが嫌いになって、
自分を消してしまいたいなんて思っているのだったら、
消えてしまうまえにいいことを教えてあげよう。
そうやって闇の中でさまよい続けているのは、
実は君だけじゃないのである。
自分がわからなくて、他人が信じられなくて、
世界のすべてが自分と相容れないと悩んでいるのは、
本当に君ひとりではないのである。
いまからわしがそれを証明してみせよう。
さ、部屋を暗くして、身体をリラックスさせて、
そうそう。そして、複式呼吸。
精神を額に集中して。
額が熱くなってきたかね?
じつはわしはいま、君に超能力を授けたのである。
君はいまから、
心の波長が会った誰かとチャネリングすることになる。
自分に似た境遇にある誰かと、心と心がつながるのである。
2
何が聞こえる? 何も見えない?
匂う? 背筋が寒い? くしゃみが出そう?
手がしびれた? 震えているのかね?
ドキドキしている? 呼吸を整えて。
頭の中を真っ白にして。
真っ黒じゃだめだ。真っ白にしなさい。
見えたか。そうか、見えたのか。
それならチャネリングはまず成功である。
ほう。赤い屋根の素敵なお家が見えたのか。
そこからいい匂いがただよっていると。
もう、たまらなくなって引き込まれてしまいそう?
狂おしいくらいにそこに入りたくてたまらないだと?
いかん。
君はいったい何とチャネリングしたんだ?
なにかとんでもないものとつながってしまったらしい。
引き込まれるな、君、引き込まれちゃならん。
誘惑には負けるな。
その匂いはまやかしだ。
目の前のお家? そんなものハリボテの家にすぎん。
その先にあるのは快楽でも安らぎでもない。
そこにあるのは暗く底知れない暗闇と、
もがいてももがいても逃れられない拘束の日々だけだ。
よかった。戻ったかね。
ともあれ、実験は成功である。
君はたんすの裏のチャバネゴキブリと、
チャネリングすることに成功したのである。
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