チャネリング博士


 わしはエスパーの馬場ひでざえもん博士である。

 これこれ、見回しても誰もおらんわい。

 テレパシーで君の頭に直接話しかけておるのだ。

 わしはいま、薄暗い自分の研究室で。

 新しい発明品の実験をしておるところである。

 もし君がいま部屋に一人でいて、

 なにもかもが厭になって、

 だれもかれもが嫌いになって、

 自分を消してしまいたいなんて思っているのだったら、

 消えてしまうまえにいいことを教えてあげよう。

 そうやって闇の中でさまよい続けているのは、

 実は君だけじゃないのである。

 自分がわからなくて、他人が信じられなくて、

 世界のすべてが自分と相容れないと悩んでいるのは、

 本当に君ひとりではないのである。

 いまからわしがそれを証明してみせよう。

 さ、部屋を暗くして、身体をリラックスさせて、

 そうそう。そして、複式呼吸。

 精神を額に集中して。

 額が熱くなってきたかね?

 じつはわしはいま、君に超能力を授けたのである。

 君はいまから、

 心の波長が会った誰かとチャネリングすることになる。

 自分に似た境遇にある誰かと、心と心がつながるのである。

 何が聞こえる? 何も見えない?

 匂う? 背筋が寒い? くしゃみが出そう?

 手がしびれた? 震えているのかね? 

 ドキドキしている? 呼吸を整えて。

 頭の中を真っ白にして。

 真っ黒じゃだめだ。真っ白にしなさい。

 見えたか。そうか、見えたのか。

 それならチャネリングはまず成功である。

 ほう。赤い屋根の素敵なお家が見えたのか。

 そこからいい匂いがただよっていると。

 もう、たまらなくなって引き込まれてしまいそう?

 狂おしいくらいにそこに入りたくてたまらないだと?

 いかん。

 君はいったい何とチャネリングしたんだ?

 なにかとんでもないものとつながってしまったらしい。

 引き込まれるな、君、引き込まれちゃならん。

 誘惑には負けるな。

 その匂いはまやかしだ。

 目の前のお家? そんなものハリボテの家にすぎん。

 その先にあるのは快楽でも安らぎでもない。

 そこにあるのは暗く底知れない暗闇と、

 もがいてももがいても逃れられない拘束の日々だけだ。

 よかった。戻ったかね。

 ともあれ、実験は成功である。

 君はたんすの裏のチャバネゴキブリと、

 チャネリングすることに成功したのである。

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