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空奇物語(うつくしものがたり)1
これは我が祖父・山科清六のノートを元に書いた架空の物語である。
一
空奇(ウツクシ)の停車場に降りた途端、汗がひいた。
山科清六は片手に下げていた学生服の上着を羽織った。札幌にある開拓大学の制服である。清六は行李の中から学帽を取り出して、伸びはじめた坊主頭にのせた。
どうも先程から、雲行きがあやしいと思っていたが、いよいよ降りだしそうな雰囲気である。
眼鏡の奥の細い目をさ
空奇物語(うつくしものがたり)2
二
一緒の汽車を降りた人は五、六人だったが、三々五々停車場から離れていく。みな、用意していた上着を羽織ったりしているところを見ると、肌寒く感じたのは清六だけの話ではなかったと見える。
京田院の話では、オオクボくんとかいう助手が時刻表に合わせて停車場まで迎えに来てくれるということだったが、本来汽車が到着するべき時間に比べてすこし間があるようだ。
汽車が早く着きすぎたらしい。早く着き