シナモンロールと夢
一年ちょっと前、ある日突然シナモンロールを食べられるようになった。それまでは嫌いだったのに、その日は何故か食べてみたいと思った。
引っ越してすぐ、家の近くに、焼き菓子やさんがあることを知った。ずっと気になっていたけれど、オープン日も不定期だったのでこれまで行かずじまいだった。
初めてそのお店を訪れた日、残っていたのはベーグルとスコーンだけだった。あるだけのそれらを買って帰ったのだが、工房の奥に置いてある、取り置きされているシナモンロールにものすごく心惹かれた。
オーナーさんはとても優しい方だった。
医療系職種、今はフリーランスで働きながら、自宅の一部を改装して工房にしているのだと教えてくれた。何か夢はあるの?と聞かれて、モーニング専門のカフェをしたいです。と答えた。と同時に、そういえばそうだった、と思った。
社会人として働いていく中で、いつのまにか、私は私の夢に蓋をしてしまっていたのだと気づいた。夢のまた夢、お金がないとなにもできない、そうやって出来ない理由ばかり探して、目の前の仕事だけをただこなしていた。
なぜカフェをやりたいと思ったのか?
それは、誰かの居場所を作りたいと思ったからだった。わたし自身が辛かったとき、そうしてもらったように。
なぜモーニングが良かったのか?
それは、美味しい朝ごはんは1日の素敵なスタートになると思っているからだ。
いつのまにかそんな思いも頭の隅っこに追いやられ、私が大切にしたかったものたちが無くなってしまうところだった。
このタイミングで、こんな出会いができて、ほんとうに良かったと思っている。彼女に出会ってから、私の夢はまたふわふわと動き出して、形作られようとしている。どれだけ時間がかかってもいい。新しい場所で、また新しいスタートが切られたらいい。
そして、彼女の作るシナモンロールは、これまで食べたどのシナモンロールよりも、いちばん美味しかった。