私は何になりたかったんだろう
私は今、獣医師として働いている。
いわゆる、犬や猫のお医者さん。
もちろん獣医師になりたいと思い続けて、働いている今があるんだけれども、
もっと概念的に、抽象的に、何になりたかったんだろうと考えることがある。
昔から、今でもふと思うのは、職人さん。
テレビで時々見るような、「数十年間一筋にずっと籠(例えば)を編み続けていて、その人が作るものは大人気なので注文してから数ヶ月待ちです」みたいな。
その人の手によって作られたものは機械で作るよりも均一で機能性が高い、とか、
寸分の狂いなく目標の重さを手で計り取ることができます、みたいな。
それはつまりどういうことか分解して考えて見ると、
手で何かを作る仕事で、他の人では代わりが効かなくて、経験が実になっていて、ちゃんと誰かのためになる実用性があり、なおかつ気持ちがこめられる仕事であること
だろうか。ずいぶん欲張りだな。
今の仕事は、前述の通り獣医師である。
今は外科を専門にするため、有名な先生のもとでトレーニング中である。
まだまだ未熟で、反省することも多々あり、たまにくじけては復活している。
外科って、体育会系の人が集まる場所のイメージがある。
獣医学生の頃もそうだったし、twitterで医師の方々を観察しているとやはりそういう印象があるので、一般的にもそうなのだと思う。
体力勝負な仕事も多く、精神的にもタフさが必要だからだろうか。
私は正直、内向的だしスポーツもできないし、熱血キャラでもない。
外科っぽくないね、と言われたこともある。
私の外科っぽいところは、ものづくりに対する愛情だと思う。
趣味は手芸で、幼い頃からいろんなものをかじってきた。
料理も、材料や時間の配分が厳密なおかし作りが好きだった。
(社会人になってからはもっぱら男料理なので、過去形にしておく。)
おかしが出来上がる頃には片付けもぴったり終わらせて、ラッピングの準備もしておく。
そういう、自分でコントロールして、作り上げる作業が昔から好きだった。
外科に携わっていて、そのときに感じていたような喜びを感じる。
術前にプランを練って、こつこつとレシピに則って進めて、
イレギュラーなことが起きても修正して、目標の状態を作り上げること。
まだ経験も知識も不十分だから、上司のフォローが必要だったり
最初から最後まで自分で、とはいかないことも多いけれど。
ふと、今目指しているところはなんだろうと考えた時に、
もちろん(動物の)外科医であることは確かなんだけれど、
子供の頃から憧れていた職人さんなのでは、と思いついた。
手先の技術があって、知識も経験もあって、誰かのためになることを目的として、そして気持ちがこめて仕事をすること。
言葉にするのは簡単だけど、すごいことである…。
エネルギッシュでもないし、熱血でもないし、ひ弱に見えるし、説得力ないような見た目だけど
でも、そんな職人気質の外科医になりたい。
心が弱って、目標がよくわからなくなっていたので、こうして改めて考えてみた。
こんなこと誰かに話したこともないし、頭の中でだって文章化したこともない。
きっと籠を作り続けて数十年の職人さんだって、心がくじけることもあったんだろうと想像して勝手に共感しながら
この道を続けていくしか私にはないんだよなと思った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?