観劇記録|『ナイス・コントロール』
劇団すばるさんの第59回公演(次回は節目の60回公演ですね!)を観劇してきました。福岡を拠点に活動する劇団万能グローブ ガラパゴスダイナモスさんが2019年に行ったプロデュース公演の作品です。
すばるさんの作品チョイスが、他の県内劇団とは一味違っていて、色んなタイプのお芝居が好きな劇団員さんがいたり、アンテナの張り方が広いなと思ったりしています。ちょっと難しいかな、という作品にも挑戦されていて、それをすばるさん流に落とし込んでできるところもいいなと思っています。
県内でこれだけの大人数が出演する作品が上演できる、というのもすばるさんの強みです。コロナ禍ではどうしても少人数の作品を採用したり、少人数の集団が活動を活発にしていたりということがありますが、その中ですばるさんが活動を着実に進めているというのは心強いです。
あらすじ
この世とあの世?の境目。そこに集まっていたのは10人の男女。先輩の代わりにこの場を対応する後輩の小鬼(西凌)から告げられたのは、「この世」に戻るか「あの世」に行くか、全員の意見が一致すれば道が開けるというものだった。期限は7日間。その間に全員の意見を「この世に戻る」に一致させようと意気込む10人。ところが、最初の意見アンケートは全員不一致。この世に戻りたいと主張する面々とは裏腹に、アンケートの結果は全員一致せずの「✕」と表示され、なぜか担当の小鬼は死んでしまうのであった。(ただしすぐに生き返る)
数日アンケートは「✕」が続き、次第に集まった10人は誰があの世行きを希望しているのか探し始める。見るからに不幸そう、という意見のもと、フリーターの夜河(坂本好信)が警備員の乾(雄一)らに呼び出される。案の定、夜河はあの世行きを希望する✕ボタンを押していたことを白状するが、その理由は、同じくこの場に来ているアイドル・香織(麻保良)ともう少し一緒の時間を過ごしたいから、というものだった。呆れる面々だが、香織とふたりきりで歌を歌って貰えればこの世行きを希望する〇ボタンを押すと約束する。
香織のマネージャーであるエリ(ながい)の了承も取り付け、いよいよふたりきりになる夜河。ところが、香織の態度は一変し、自分が歌いたいのは売れているアイドルソングではないと言い始める。香りが歌いたいという新曲を聴いた夜河はその歌に絶望し、はやくこの世に戻って香織のCDを聴きたいと〇ボタンを押そうと決める。
これで全員がこの世行き希望の〇ボタンを揃って押せると思った10人だったが、変わらず✕ボタンを押したものがまだいるという結果になったのだった。
夜河以外の✕ボタンを引き続き探し始めるのだが、✕ボタンを押したと、次々と名乗りをあげはじめる。
この世でのアイドル活動に不満がある香織、
マネージャーのエリの夫、甘粕(七味零)と不倫をしており、この状況を続けたいマナミ(みな)、
マインドコントロールから抜け出した若咲(むつお)と、
あの世希望の✕ボタンチームの人数が少しずつ増えてくる。
そこで気が付いたのが、毎日どこからともなく用意されている1種類のドリンク。今まではバナナオレだったのが、青汁に変わっている。小鬼を問い詰めると、✕ボタンを押した人数によってドリンクが変化するという、小鬼たちスタッフへの内緒の連絡方法だという。✕チームに今いるメンバー以外にも、どうやら✕ボタンを押している人がいるらしいと気が付く面々。説得し、こちら側に人を寝返らせてやろうと息巻く✕チーム。目標は梅酒だ!
その頃、○チームは、ここの集まっている10人のうち4人が、死ぬ直前同じ場所に居たことに気が付き、死んだときの状況を明らかにした方がよいのではないかと話し始めていた。
○チームと✕チームが相対し、直接対決が始まる。✕チームは着実に○チームを寝返らせる。時間が経過しないため、これ以上年を取らない誘惑に負けた倉(藤☆峰ん子)、香織に寄り添いオリジナル曲をあの世で売り出そうと決意したエリ、そんなエリを追いかけつつマナミに手を引かれた甘粕。ついに○チームは乾、二瀬(まあ)、重杉(ニーチェ石原)だけになってしまう。
起死回生の一手になるか、死ぬ直前に同じ場所に居た者が4人いると告げ、それぞれの記憶を思い出すと、ここにいる全員が同じホテルに居たということが発覚する。ホテルで火災が起き、全員巻き込まれて死んだということが明らかになった。そして、その火災の原因は乾であり、自らの行動を改めるべく、あの世、✕チームへと合流するのだった。
また、二瀬は重杉の行動を振り返り、自分にとっては望んでいないことだと告げる。野球人生を過ごす上で、重杉は二瀬に不要だと思った、バイクや私物などを捨て去っており、さらには幼馴染の女性までも手にかけていたのだった。二瀬から本音を聞かされ、重杉もまたあの世で自分の罪と向き合うことを決めるのだった。
そして最後のアンケート。
この世に戻りたい人は〇、あの世に行きたい人は✕ボタンを押す。
7日目最後にして、全員の心は「あの世行き」を希望し、✕ボタンを全員が押す。その瞬間、道は光で照らされ、「この世に戻る」道が開けたのだった。あの世に行くつもりだった面々は、予想しない結果に戸惑いながら、ゆっくりと暗転していくのであった。
大人数の登場人物作品ができるということ
コロナが蔓延し始める前は、ここまで顕著ではなかったかもしれないが、思うように活動出来ない期間を過ぎ、少しずつ演劇活動を再開しようとなった時、それまでの流れからか、少人数の団体、集団、ユニットの活動が目立つようになってきた。かつては人数が多かった劇団も、今では役者、スタッフをギリギリの人数で公演する、客演をお願いすることで公演がようやくなりたつという状況になっているところも見られる。
そんな中、劇団員数が伸びている劇団P.O.D.さん、そして変わらず活動を続け、劇団員数も維持しているのが劇団すばるさんだと思う。
少人数の作品を上演し、客席数も少なめにすることで、コロナに対応してきたことも、活動を続けるということを目指すには良い工夫だなと感じている。その反面、大人数が登場する作品を県内で観られる機会が本当に少なくなったなと思っている。そんなときに、すばるさんが劇団員全員演劇で、こういった面白くて、素直に笑って、最後には「おっ!」と思うような作品を上演してくれたことは本当に嬉しいなと感じた。
2時間の作品になると、通しをするにも1日1回しかできず、登場人物が割と多く集まるシーンも沢山で人が揃っても思うように進まないこともあったんじゃないかと思う。それでも、ここまで仕上げてきたすばるさんは流石だなと思った。
さりげないけれど、衣装も色分けがされていて見やすいし、わかりやすさを重視した演出をここまでされると、観ている人のことを大事にしているなと思わされる。客席も、お子さんから、普段演劇を観なさそうな人たち、熟年層まで幅広く埋められていた。それでも、これだけお客さんがゆったりした雰囲気で観て笑ってくれたというのはすばるさんのこの雰囲気が好きな方々が多いのだろうなと思う。
欲を言えば、前半はもっとテンポとスピード感があっても良かったと感じた。最初は台本からも何となく感じるが、集められた人たちは何かよくわからないままボタンを押せ!と言われ、わけも分からないまま2日ほど無駄に過ごさせられてしまった。そのわけがわからない、でも何とか理解して対応しなければ、というのが、ようやく何となくわかってきた3日目、行動が起こせる4日目、という風に、人々の落ち着き、余裕みたいなものがスピード感として演出されていても良かったかなと思った。
1時間を経過した頃から、観ている方も集中力が続かなくなってきて、椅子に座り直したり、姿勢を崩し始めたりしていた。どちらかというと後半から話の展開やキャラクターの掘り下げが始まる面白い部分なので、そこから集中して見てもらえるようであればよかったかな~と思った。
お芝居も、全員がホール芝居(ちょっと広い会場でもお芝居が映えるような大きめのわかりやすい芝居)寄りになっていたのも良かった。(意識していたかはわからないが)そこで全体の質感や空気感が同じように揃えられていたので、とてもわかりやすく見られたし、観る方も「そういう芝居で展開される」という納得感があったので、安心して観られた。
多少、抜きの芝居を入れてもよいシーンや台詞はあるかなと思ったけれど、すばるさんの今回のキャラクターのつくり方であれば力を入れる芝居でも押し切れたなと思った。(抜きの芝居を演出として随所に入れていった方が、緩急やスピードがコントロールできたとは思う)
これだけの人数が出ているにも関わらず、すばるさんの舞台は、誰が誰かキャラクターがわかる、というのが素晴らしいと思った。大抵、「この役とこの役が似ているから判別がつかない」というキャラクターがいるのだが、この作品はそういったことが無く観られた。(パンフレットもちゃんと衣装で撮影されていたし、この方がいいよね、というのが考えられていて本当に良かった)次回以降、レベルアップを目指すとしたら、台本の台詞や展開に頼らずに関係性をつくれるようになったら良いなと思った。今回のように、○○と✕✕、というように関係性のあるペアがある作品は、それらの関係性で、「セット」として見えるようにして、されにそれが展開によって、ペア同士の関係性や、別のキャラクターとの関係性の比較、関係性の変化、というのが見えたらより面白いと思う。台本をそのまま演んじても、最低限の関係性は保証されていると思うけれど、役者さんや演出さんなりの描き方が見えたら、よりすばるさんらしい作品に仕上がるんじゃないかと思った。
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