マスターズの思い出
ディフェンディングチャンピオンとして松山選手が連覇なるか、というマスターズがもうすぐ開幕ということで。実は過去に一度現地で観戦したことがあって、そのときも松山選手は出場していた。ただ、当時日本人としては石川遼選手のほうに注目が集まっていたように思う。ギャラリーには石田純一氏も見かけた。
せっかくなので、そのときのことをまた書いておこうと思う。
2013年の3月、マスターズ観戦のためにオーガスタへ行く準備に追われていた。僕自身はゴルフには詳しくないし、やったこともないので、ゴルフコースに足を踏み入れるのは生まれて初めてなわけだけど、それがオーガスタ・ナショナルというのも我ながら衝撃的だった。二十数年イラストレーターをやってきたが(当時)、こんな経験は滅多に無いと思う。
レップを通してGolf Digestのクリエイティブ・ディレクターKen DeLagoからメールが来たのが去年の2013年の3月。4月8日から15日までマスターズを観に来てイラストレーションを描かないかというオドロキのオファーだった。イラストレーターが一週間現地に行って、マスターズの一部始終を見ながら、雑誌の特集のために数点のイラストレーションを仕上げるというこの企画、僕がリスペクトするイラストレーターも数人手がけていたので知ってはいた。
Mark Ulriksen
John Cuneo
Jeffrey Smith
ただ、アメリカには凄い企画があるものだなとは思っていたものの、まさか日本に居る自分にお鉢が回ってくるとは考えもしなかった。最初に思ったのは、日本から行くことになるけどマジか?ということ。メールでやりとりしてみると、旅費や宿泊代、レンタカーなど取材にかかる経費は全部出ること、ギャラの他に日当も支払われるとのことで、本気のオファーだった(さすがに飛行機のビジネスクラスは無理だったけど)。〆切は2013年一杯、何を描くかについては、全くの自由(もちろんマスターズの絵であることは当然)というまさにドリーム・プロジェクト。他に僕の義務としては、滞在期間中に一度、ゴルフライターズ協会の授賞式・パーティがあるので、ジャケットとネクタイ着用で出席することというのがあった。また、マスターズは前半の練習ラウンドが終わり、トーナメントが始まったら写真撮影は禁止なので、記録の手段はスケッチになる。持ち込める荷物のサイズが厳密に決められており、スケッチブックの大きさもその範囲内ということで、僕が持参したのはモレスキン一冊。携帯電話はゴルフコースへの持ち込みが一切禁止。持っているのが見つかったらその後一切入場できなくなるので、携帯についてはくれぐれも注意するようにと言われてた。
オーガスタへは日本からの直行便は無し。アトランタまでの直行便もそれほど多くない。アトランタ空港でレンタカーを借りて三時間運転してオーガスタまで辿り着くか、便数は少ないもののアトランタから飛行機でオーガスタへ行き、レンタカーを三十分運転して行くかというところ。僕は車を持っていないので(免許はあるけど)、運転自体何年もしてないし、いきなり知らない土地を三時間一人でフリーウェイを走るのも不安だなということで、オーガスタまで飛行機を予約した。まずアトランタ空港のMarriottホテルに一泊して次の日にオーガスタ、そこからレンタカー。
オーガスタ空港。
レンタカーはDodgeのDartという車。Avisから指定されたロットには別の車が停まっていてDartはどこにも見当たらなかった。少し離れた場所に発見。
いちおう地図をプリントして何度も道順を確認して行ったが、グーグルマップで見るのと実際に走ってみるのとでは全然違って、何度か曲がるべきところを通り過ぎてしまった。目的の住宅地は入口にゲートがあって、登録された車しか入れないようになっているので、予め送られてきていた通行許可書を車のルームミラーに掛けておくと中へ入れるという仕組み。なんとか無事滞在予定の家に到着。
美しいオーガスタ郊外の住宅地。ツツジがとても赤い。
僕が一週間滞在した家。
オーガスタ・ナショナルの周辺にはホテルもそれほど多くない上に、この時期は当然予約で一杯、街全体がマスターズ一色になるそう。もともとここに住んでいる人たちは、期間中家をまるごと貸し出して、自分たちはどこかに行ってしまうようだ。そういうわけで、この高級住宅地にある屋敷を三軒、毎年Golf Digest編集部が借り切って、カメラマンやライター、編集部の人たちで住むことになっている。これはそのうちの一軒で、僕が一週間滞在した家。部屋はとても快適で、さすがにアメリカという感じ、それぞれ部屋にシャワーとトイレが付いていて、しばらく忘れていたアメリカの豊かさを思い出した次第。マスターズに出場するゴルファーたちもこのような家を借りて滞在するらしい。この家に滞在した経験だけでも素晴らしいものだった。
こちらが編集の本部が借りていた家で、朝食は毎日ここに集まって食べる。写真ではわかりにくいかもしれないが、この家が豪邸中の豪邸で、いったい部屋がいくつあるのかと驚いたほどだ。地下にも部屋があった。僕が滞在した家も、日本の基準からしたらかなり大きな平屋であったが、こちらの家は比較にならない大きさだった。
朝食のテーブル。家にはメイドさんが居て、毎朝朝食を作ってくれる。玉子とベーコン、という典型的なアメリカンブレックファーストだけど。一週間同じものを食べると当然飽きる。僕は日本からお粥とかインスタント味噌汁を持って行ったりしてた。
編集部の人々は全員が最初から揃ってオーガスタ入りしているわけではなかったので、初日は広い家に僕一人という状態。家の中をうろうろしたりキッチンに行って何か食べ物でも無いかと冷蔵庫を開けたり閉めたりしていた。夜になって若手編集者の一人が到着、翌日ゴルフコースを案内してくれることに。
朝、彼の車の後ろに付いて出発。ゴルフ場が近づくにつれて一気にスピードダウン。マスターズ観戦の人々の車が駐車場へ入るために並んでいて、極めてのろのろ運転だ。
ボランティアの係員に誘導されて駐車。驚くべき広大な駐車場。これじゃ自分がどこに停めたかわからなくなる。パーキングロットの場所がアルファベットと数字で示されているので忘れないようにしないと。当然日によって停める場所が変わるので、一度来ればわかるというものでもない。最初の日がC11、二日目がE7、三日目がまたC11という具合。
歩いてゲートへ。これがまた遠い。
右側のプレス用ゲートから入る。プレスパスを見せて荷物チェックを受け、カートに乗せてもらいメディアセンターへ。
これを首から下げていると、一般の観客(パトロン)が入れないクラブハウスなどにも足を踏み入れることができる。
メディアセンター。これから毎日ここに来ることになる。この建物の中だけは携帯電話の使用オーケー。あるとき危うくiPhoneをポケットに入れたままコースへ出るところであった。冷や汗ものだ。
中はこんな感じ。Golf Digestのデスクに荷物を置かせてもらっていた。日本のメディアもちらほら。
メディアセンターにあるカフェテリア。何でも好きなだけ無料で食べ放題。観戦に疲れるとここに来てコーヒーなどを飲みつつ一休み。
コースの各所にある売店でも販売されている名物のピメント・チーズ・サンドイッチ。これはなかなか美味かった。
さて、いよいよコースへ。
そもそも何故僕がこの仕事に抜擢されたのか、実は自分でも謎だった。滞在先のキッチンでビールを飲みながらクリエイティブ・ディレクターのKenから聞いたところによると、前の年にこの仕事をしたイラストレーターのEddie Guyが僕のことを推薦してくれたそうだ。Eddieの作品は知っていたが、特にネットやメールでやりとりしたことはなかったのでとても驚いた。これが、よく言われるけど実態のわからない、いわゆる「見ている人は見ている」ということなのか。どこに居るんだ見てる人、と穂村さんも言ってたっけ。
撮影が許可されている練習ラウンドから写真を数点。
コースに出るとすぐにある大きなスコアボード。ここで全選手の成績を確認できる。それにしても、まず誰もが驚くのではないかと思うのだが、コースのアップダウンが凄い。これはテレビや写真を見ただけでは決してわからないものだろう。実際自分がカメラを構えて写真を撮っても、どうも現実より平坦に写るような気がした。ここを絵にする時はコースにある高低差をより強調したいというメモが残っている。
木々がとても印象的だ。ボールが当たらないように下の方の枝はカットされている。この木々を描きたいと思った。
長い竿のようなものでグリーンを整える人。芝を短く刈り揃えてガラスのグリーンと呼ばれる高速グリーン。バンカーは眩しいほどに白い。
絨毯のようなフェアウェイに短くカットされたラフ、林の中はこのように松葉が敷き詰められている。
桜と売店。
青いジュース。このカップは皆お土産に持って帰るようで、それなりに頑丈に作られている。一日のうちにビールやジュースを何杯も飲むので、その分だけ空になったカップを積み重ねて持ち歩いている人を何人も見かけた。
本戦前日の水曜日に開催されている恒例のパー3コンテスト。出場選手の家族がキャディーを務めるなどリラックスムードのイベント。
選手のインタビューが行われるクラブハウス前のビッグオーク。
スーツを着て出席したゴルフライターズ協会の授賞式・パーティ。
滞在最終日の打ち上げパーティ。メインは巨大なフライドチキンだった。テレビで有名な大物スポーツキャスターなども当然参加しており、日本語でさえ苦手なパーティが、英語で上手くこなせるわけはないのであった。
以下は仕上げた絵とスケッチ。
7番ホール
ディテール
実際の誌面
9番ホール
最初横位置の絵だったが、片ページなので空を足して縦にした
10番ホール
15番ホール
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