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ヒラヒラしないかつおぶし
子供の頃、夕飯前の時間帯に祖父がよく木製の鰹節削り機で鰹節をかいていた。鰹パックに入っているようなヒラヒラした姿ではなく、粉のような状態であることもあったがおいしかった。
私も手伝いでよく鰹節をかいていた。なんでかこの作業は「削る」と言わずに「かく」と言っていた。かき方については特に指示されることはなく「手はかくな」とだけ言われた。それでも何度か血が流れた。刃物がこっち向いてる道具だから仕方がない。
それにしても、なんで鰹パックのようにヒラヒラした姿にならないのか。力加減がおかしいのか、なんなのか結局わからなかった。
子供が産まれたのを機に、鰹節削り機を買った。離乳食用のだしを取るためだ。ちょっと張り切った。
大人になったら鰹節削り機はアクリル製になっていた。ただし、かんなの台座となっているところだけは木製である。
本当は全部木製のものが欲しかったが、子供の食事用なので洗えた方が衛生的だろうというのと、どれだけかけたか目視で確認できるというのは魅力的だった。
しかし、慣れない育児(ワンオペ)でいっぱいいっぱいになった。かつおぶしをかき、だしをとって離乳食を作る、という次元まで辿り着かなかった。自動化などとは正反対の道具なので仕方がない。それでもなんとか乳児・幼児期を乗り切ったんだから万々歳と思わないとやっていられない。
さて、期待されていた用途では日の目を見ずに、しかし手放すこともなく削り機は食器棚の片隅に何年も存在していた。
ある日、鰹節を買いに行こうと思い立った。しかし、どこに売っているかわからない。近所のスーパーにはなかった。
実家でも買っている様子を見かけたことがない。正月飾りに神棚の脇に紐にくくられて5匹ぐらいがぶら下がっているのを、1年かけて食べていたんじゃないだろうか。あれはどこからきていたのか。もらいものか?
一か八か、百貨店の食品コーナーに行ってみた。よかった、1匹ずつバラ売りされていた。
パッケージの中には、鰹節のかきかた説明書が入っていた。それによると削るのには正しい鰹節の向きがあり、正しくないと粉になってしまうということだった。この削り機を買った時もきっと説明書は入っていただろうけれど、それを読む余裕もなく記憶を辿って削ったんだろう。やっぱり粉だった。
だれも正しい鰹節のかきかたを知らなかった。正しいやり方があることすら知らなかった。運が良ければヒラヒラしていたのだった。