無職が一週間ぶりに出かけて観た今年最高のSF映画「レミニセンス」について語る
台風が過ぎたあとの青空がとても気持ちが良くて、久しぶりに映画でも観ようと一週間以上ぶりに電車に乗って出かけた。
最近蕁麻疹を発症して外に出ることが出来ず、ずっと家にいたものだから久しぶりの電車は少し新鮮でワクワクした。
今日は「レミニセンス」という映画を観たのだがこれがとても面白かった。
主演はヒュー・ジャックマン、監督は今回が映画初監督となるリサ・ジョイと製作にはクリストファー・ノーランの弟で「インセプション」や「ダークナイト」の脚本にもかかわったジョナサン・ノーランが参加している。
あらすじ
本作は地球温暖化による海面上昇によって領土が縮小し、それに伴って世界戦争が勃発した後の世界が舞台となっている。ヒュー・ジャックマン演じる主人公のニックは元兵士で唯一の従業員でアル中の同じく元兵士ワッツと共に、記憶潜入装置(レミニセンス装置)を使って現実に疲れた人達に過去の記憶を追体験させることを生業としている。ある日、二人のもとに無くしたカギを探して欲しいとメイという美女が訪れるがニックはメイに恋をしてしまう。その後色々あってメイと恋人になるもののメイは突然いなくなってしまう。途方に暮れるニック。しかし、依頼で麻薬ブローカーの記憶に潜入した際に麻薬組織のボスと話すメイの姿を見つける。そこからニックはレミ二センス装置を使ってメイに繋がる手掛かりを探し始める・・・。
というお話なのだが、直球ドストライクで好みの映画だったのでここで紹介させてほしい。
開始10秒で今年観た映画ナンバーワン決定
今作の魅力は何といってもその脚本の秀逸さである。地球温暖化による海面上昇だけでなくそれによって領地をめぐって戦争が起きたという設定からすでに脱帽。海面上昇と戦争という自然と人間によるダブルパンチの絶望が人類を襲う。それによって人が現実よりも幸せだった過去にすがるようになったという設定に深みが増すのだ。また、過去を追体験させるレミニセンス装置は戦争で捕虜から情報を得るための装置であり、主人公は過去に装置を使って尋問を行っていたという設定からも彼が警察から頼られるほどの腕前があることの理由としてとても説得力がある。
またその映像美も注目すべき点で水に沈んだ都市や海にそそり立つ風車、中でも海の上を走る電車のシーンは監督が「千と千尋の神隠し」に影響されてシーンに加えたというから日本人にとっても琴線を刺激されるシーンが多いのではないかと思う。水と光の使い方が印象的であり、水の美しさや恐ろしさを光を使うことでうまく演出しており、大変美しい映像に仕上がっている。
人との記憶という王道のテーマとリアルな装置の設定
やはりSF作品ならではの魅力であるありそうな近未来のマシン。今作ではその数は少なく、人の記憶から過去を追体験できる装置のみである。だがそのリアリティさがすごい。過去に行くにあたっていくつかルールがあるのだが
1.潜入できる記憶は、対象者が五感で感じた世界すべてである
2.同じ記憶に何度も入ると、対象者は記憶に吞み込まれ、現実に戻れなくなる(この現象を燃焼(バーン)と呼ぶ)
3.記憶に、事実と異なるものを植え付けると、対象者は脳に異常をきたす(この現象を意識空白(ブランク)と呼ぶ)
といったように禁止事項が設けられており、これによって話のスリルが増す。このルール設定の細かさはクリストファー・ノーラン監督の「インセプション」を彷彿とさせる。さらに過去に行くにあたって被験者の精神を安定させるため、精神安定剤を注射器で投与する。また被験者は頭に神経接続用のヘッドギアを装着し、脳に電圧を与えることでスクリーンに過去の映像を投影することが出来る。スクリーンは光学繊維を円状に配置したもので、記憶を立体的に映し出すことが出来るという。過去へはオペレーターがマイクを使って外部から誘導し、ポイントの過去まで遡らせる。
このようなリアルな設定が物語の説得力および深さを演出しており、ラストスパートでは装置の設定がこれでもかというほど活かされるのでこれから観られる方は是非注目して頂きたい。
つまりワッツが好き
ここでは個人的に好きなキャラクター、唯一の従業員にしてアル中の元兵士ワッツについて語らせて欲しい。
タンディー・ニュートン演じるワッツは娘を持つ女性従業員。戦時中は銃の名手として活躍するもアルコール依存症によって離脱。ドローンの軍需工場で働くもアルコール依存の後遺症による手の震えによりミスをしてしまい工場爆発事故の当事者になってしまう。それにより娘の親権を失い、流れつくようにニックのもとで働き始める。彼女は最初しっかり者の姉さんポジションなのかと思いきや客の目の前でも酒を飲む結構なアル中姉さんである。しかし、彼女の兵隊としての経歴が活かされるシーンがあり、そのシーンですっかり彼女のファンになってしまったわたしはとにかく彼女について語りたくて仕方なくなってしまったのである。
彼女は映画のなかで主人公のニックと同様戦争という暗い過去を持ち、主人公の良き相棒として序盤は登場するのだが話が進むにつれ彼女の存在はニックと相対する存在として描かれていく。いなくなった恋人を探すためなりふり構わず行動するニックを諫めるワッツとそれに対して反発するニック。やがて二人はある決断をするのだが、その演出がまた秀逸であり、わたしはそのシーンが流れた時はもうワッツに対してある種のシンパシーを感じずにはいられなかった。ワッツ‼と内心で叫ばずにはいられないそんな愛しいキャラクターがワッツなのだ。
あと単純にタンクトップのタンディ・ニュートンがかっこいいので是非注目して欲しい。
過去か未来か
テーマである過去という概念について、過去とは本来取り戻せないものであり過ぎ去ったものであるとウィキペディアには書いてある。本編の中でも過去は幽霊かそれとも過去に縛られた人間こそが幽霊なのかというようなフレーズもあった(うろ覚えだが)。
人はどうしても辛い現実を前にして、輝かしかった瞬間や親に甘えられた時のこと、友達や恋人と過ごした時間などを思い出してはしばしば現実逃避に走ることがある。レミニセンスでは過去には麻薬のような中毒性があるといことを言っており、物語において登場する本当の麻薬と過去への依存性は観ていて違いは無いように思えた。なのでこの映画が迎えるラストは色々意見が分かれると思う。
ただ私はこの映画から過去との向き合い方を学んだような気がする。いずれ死んでしまう人生で人の総合的な幸せの判断基準はいかに良質な過去を作り出せたかということになる。悔いなく楽しく幸せな過去を振り返りながら死ねたらどれだけ幸せな人生だろう。しかし、その良質な過去を作り出すためには今の自分がより良い未来に向かっていかなければならないのだ。そのためには過去から学び、時には辛い過去と向きわなければならない時もあるだろう。しかし、それは最終的により良い死を迎えるために必要なことであり、過去に囚われ続けていればそれは叶わないことなのである。
この物語はフィクションであるがフィクションであるがゆえに過去という幽霊に囚われた人達がどうなるのかを客観的に見ることが出来る。過去に囚われたキャラクター達を見ているとある種の異様さに気付くだろう。運の良いことに?まだレミニセンスが存在しない現代において、わたしたちが向かい合うべきは過去か未来か、それは映画を最後まで観ることで答えが出るのではないだろうか。
まとめ
ここまでザっと書いたがこれまでnoteで書いてきた中で断トツで長い記事になってしまった。かれこれ3時間近く書いている。それくらい良い映画を観たということでここに自分の思いをぶちまけられて満足している。
記事を見る人がどれだけいるかは分からないが観て損はしない映画なので是非劇場で観て欲しい。エンディングは賛否両論あると思うがそこは男女の違いも関係しそうなラストであり、どちらの結末が幸せか議論できるよう誰かと観に行くことをお勧めする。わたしは一人で観に行ってパンフレットを買うとき受付のお姉さんに思わず話しかけそうになってしまった笑。
それでは、ここまで読んで頂きありがとうございました。皆さんの映画ライフの一助となれば幸いです。ではまた。