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「神社の突風」 実話ショート怪談


はじめに

これは私(Kitsune-Kaidan)がある神社を訪れようとした時に起こった、『神社で吹く』にまつわる不思議なショート怪談です。

私たちは日々の暮らしの中で『相性が合う・合わない』という表現をよく使います。例えば、人間関係、土地、建物、身につけるもの、音楽、食べ物などなど…。日頃から相性について何気なく考える機会がわりと多いのではないかと思います。それでは、神社との相性はどうでしょう。

「日本人はどうして神社やお寺に行くのに信仰心がないと言うの?」

海外の方にこんな質問されることがあります。確かに、特定の宗教を持たないという方でも季節の行事や観光などで神社やお寺を訪れるという方が多いのではないでしょうか。私は神社とお寺、どちらも好きです。たまに無性に訪れたくなります。

あの時の私もそうでした。

「神社にお参りしていこう」

気軽にそう思って神社に向かいました。すると、なんとも不思議な現象が起き、神社との相性について深く考えさせられました。身の毛もよだつ怪談というよりは興味深いお話ですので、ぜひ気軽にお読みください。

それでは、不気味な世界へとつながる扉をお開けください。どうぞお気をつけて、行ってらっしゃいませ。


トイレの幽霊の噂

あの頃の私は体調が相当悪く、その日は週に一度の診察の日だった。自宅から電車で数駅のところにあるクリニックは、繁華街としてある程度栄えている町にあった。私はその町が好きだがなぜか苦手なところがある。理由はいろいろとあるが、昼と夜の雰囲気が180度変わるところが一番奇妙だ。

電車と地下鉄の駅の間にあるメインストリートは、市場やお茶屋、和菓子屋、花屋、ちょっとしたアパレル、レコード屋、カフェなどがあり、昼間はそれなりに賑わっている。私はひとりでその町をブラブラするのが好きだった。

日が暮れて歓楽街の明かりが灯ると、昼間ののんびりとした雰囲気から少し怪しげな雰囲気へと変化する。まるでからくり扉を開けたかのようにまったく別の世界に入り込んだかのようになる。昼間とはぜんぜん違う年齢層の人たちで賑わう。

数年前、クリニックの近くの地下鉄駅の女子トイレで悲惨な殺人事件が起こり、被害者の幽霊が出ることで有名だった。自分以外誰もいない時にトイレを使用していても必ず誰かの気配がするため、確かに恐ろしい。個室を使用していると足音がする。誰かが待っている気配がしているにも関わらず、ドアを開けても誰もいない。

私はときどきそのトイレを利用することがあった。ある日、化粧直しスペースで髪の毛を整えていると、花瓶に花が生けてあるのがふと目に入った。その瞬間、私は金縛りになり背後に立つ女性の気配をはっきりと感じた。恐るおそる目の前にある鏡を見ると、そこには私しか映っていない。ところが、背後にあるその気配がスッーッと移動し、今度は私の耳元で女性の息づかいを感じた。私は急いでトイレを後にした。

そのトイレはできるだけ使いたくはない。


参拝

私がその町を苦手だと思う別の理由に開拓の歴史がある。歴史的な場所であるその地域には当時を想像させるようなものは、ところどころ石碑や看板が置かれているくらいで、普通に生活している分には忘れ去られているようなところがある。

だが、ふとした瞬間ものすごく暗い歴史を感じる瞬間がある。歴史を知っているからそう感じるだけと言われればそれまでだが、明るい昼間の雰囲気の中にもどことなく寂しげな雰囲気が漂っていることがある。

その町に古くからある立派な神社は、江戸時代に建てられたものらしい。これまでに何度か参拝したことがあったが、大人になってからは参拝したことがなかった。

クリニックを訪れた後、特に改善点も見受けられず相変わらず体調が悪い私は少々落ち込んでいた。ふと目に入った神社の鳥居が神々しく見えた。

「参拝でもして帰ろうかな」

何気なくそう思った私は、道路を渡って神社へと向かった。立派な大きな鳥居がそびえ立っている。私は深呼吸をひとつしてから挨拶をして、鳥居をくぐろうとした。

その瞬間、


突風

神社の本殿の方からものすごい勢いの突風が吹いてきた。耐えきれずに体が少し後ろに動くほどの強風だった。髪の毛がボサボサになった。

周りをキョロキョロと見回すと、辺りには私以外誰もいなかった。本殿の周りには参拝客が数名見えた。私はあまりに激しい突風に圧倒されてしばらくその場に立ち尽くしていた。

「入ってはいけない」

そう感じた。なぜかはわからない。でも直感でそう感じたのだ。


波長が合わない

私は『波長』『相性』が合わないと感じたとき、なるべく深追いをしないようにしている。直感がいちばん正しいとあらゆる失敗に学んだからである。第一印象で波長が合わないと分かっていてもなるべく努力した結果、やはり初めの直感があっていることを嫌というほど経験してきた。

とは言っても、いまだに失敗を繰り返すことはある。波長や相性が合わないのは何も人間関係だけではない。物や自然、動物、見えない存在などとの相性の良し悪しもある。また、初めの頃は良いと思い込んでいても、途中から相性や波長が合わなくなることもある。そこで直感の話に戻る。初めの頃は良いと思い込んでいても、結局は波長が合わない原点に戻ってしまうのだ。

この時、神社との波長が合わないと直感で感じたのは今でも正しかったのだと思う。神社の参拝で風が吹いた場合、歓迎されているという人もいるだろう。ただ、この時の突風は明らかに歓迎のそれとは違った。何か強い意志が鳥居の向こうの本殿の方から伝わってきたのだった。


神々

神道における神(かみ)とは、自然現象などの信仰や畏怖の対象である。「八百万の神」(やおよろずのかみ)と言う場合の「八百万」(やおよろず)は、数が多いことの例えである。

Wikipedia

山の神、海の神、風の神など自然物や自然現象を司る神々、衣食住や生業を司る神々、国土開拓の神々などたくさんの神様がいるという。あの時の力強いエネルギーは風を使って意志を伝えてきた神だったのではないかと思う。

堂々としていて、神々こうごうしく、清らかな雰囲気で、まったく怖いとは思わなかった。むしろ、入ってはいけないと止めてもらって助かったように感じる。否定されたことで落ち込んだり、悲しいと思うような気持ちはまったくなかった。

以前参拝したことのあるその神社にその日入ることができなかったことを、素直に受け止めることができた。


おわりに

Collage Artwork by Kitsune-Kaidan

あの時、強引に神社を参拝しなくてよかったと思います。当時の私は心身ともにたいへん弱っていて、あの強い神社のエネルギーを受け止めることもできなければ、いい方向に作用することが不可能だったように思います。

私にとって神社とは参拝する日は何気なくやってきて、縁がある時にのみ訪れることができる場所なのではないかと思うのです。

流れに逆らわず、波長や相性が合う時にのみ行動をとるというのは無理なく生きて行く上でとても大切なことであることを自然に学ばせてもらえたような気がします。それにしても、神社の入り口であのような突風を受けたことは後にも先にも一度きりです。

神社を訪れる際は、くれぐれも突風にお気をつけください。

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Kitsune-Kaidan
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