シェイプオブウォーターと緑とワタシ
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“夜中に妖精さんがトイレにいく”
民宿をやっている祖母と母のこの会話を盗み聞きした私は、夜中暗いトイレへ心を躍らせ、ひとりのぞきに行ったことを思い出した。
しかしトイレで出会ったのは、妖精さんではなく"寮生さん"。
もちろんがっかりはしたけれど、"トイレに妖精さんがいる"というおとぎ話のような世界に、少しの時間でも恍惚としたあの経験は、私にとっては貴重であり愛おしいものである。
この作品は、そんな幼少期の頃に見た夢を思い起こさせてくれるものだった。
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でもただのファンタジー小説ではない。
同じ人間(生物)であるのに、肩身の狭い思いをしている人間がいることに対して怒りを感じたことのある者であれば、作者であるギレルモ監督の思いを感じ取ることが出来るだろう。
「変わっている」「おかしい」と言われたことがある人間だからこそ、理解できる人の傷みというものの存在を改めて感じた。
きっと監督自身もその傷みを感じて生きてきたのではないかと思う。
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印象的な場面なんて山ほどあるけれど、あえて一つあげるとすれば、ヒロインの女性が愛する人(人ではない)のことを思いながら買い物をするシーン。
人が人を喜ばせたいと思う気持ちは何でこんなにも美しいのだろう。
映画ではこのシーンはなかったけれど。
きっと愛犬や愛猫のエサを選んでいる時の感覚と似ている。
"これ中にクリーミーチーズが入ってるの?絶対美味しい!"
って自分が食べるわけじゃないのに嬉しくなったりする感覚。
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ギレルモ監督が創造したこの世界は私みたいな脳内お花畑にとって憧れそのものだった。
人が創り出した世界(音楽、小説、絵画、映画もろもろ芸術)というものは、たとえそれが面白くもなく、心に響くものでもなく、浅はかなものであったとしても、ある一人の人物が創造したというだけで、価値のある尊いものとなり、それを否定するべきではない。
そんな価値観が自分の中で芽生えるくらい、この作品は美しすぎた。