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それでも私は身銭を切り、日本製鉄を応援する


日本製鉄(以下、日鉄)によるUSスチールの買収について、連日賑わいを見せています。



国内製鉄事業の発展性が乏しい中、日鉄は海外事業の展開に活路を見出しています。その一環として、2023年12月にUSスチールの買収を表明しました。

しかし今般、米国安全保障の懸念があるとして、バイデン大統領に阻止されました。

状況を覆すのはかなり厳しいという論調が支配的になっており、それを察したクリーブランド・クリフスやニューコアなど米鉄鋼大手がUSスチールの買収をけしかけています。

USスチールをめぐる今後の行方に目が離せません。




潰れかけ、復活した日鉄


ところで私は、日鉄がUSスチールの買収を表明したころから、日鉄の株を保有しています。

日鉄は粗鋼生産量で国内トップ、世界第4位の鉄鋼メーカーです。

「鉄は国家なり」という言葉どおり、鉄がその国の産業を繫栄させてきたことは、近代国家における世界共通の歴史です。
1901年に操業を開始した官営八幡製鉄所を始祖とする日鉄は、良くも悪くもそうした歴史の重みを背負いながら歩んできた、重厚長大産業の代表ともいえる存在です。

しかし、オールドエコノミーの象徴ともいえる同社。鈍重とも揶揄される「親方日の丸」体質があってか、長らく高コスト体質に苦しんでいました。

2019年度には4,300億円もの多額の赤字を計上し、キャッシュも垂れ流し状態。一時は潰れかける状況に追い込まれました。

そんな中、鹿島製鉄所の高炉休止や呉製鉄所の全面閉鎖など、痛みを伴う構造改革の結果が出始め、高コスト体質の改善とともに財務体質が飛躍的に向上しました。

また、鉄鋼業界の値決めには長年の慣習があり、高品質な鋼材が安く買い叩かれていました。

しかし、当時の社長であった橋本英二氏は、鋼材の安定供給が鉄鋼メーカーの使命であるにもかかわらず、主要顧客に対しても、「値上げを受け入れなければ供給できない」と、毅然とした態度で告げていたようです。


「それでは供給できないと伝えてほしい」 
それでもなお値上げをかたくなに拒む顧客もいる中、橋本はさらに大胆な策を講じる。営業担当副社長の中村や薄板事業部長の広瀬 に「(顧客の)購買担当者に『値上げを受け入れてもらえないなら供給はできない』と伝えてほしい」と指示したのだ。聖域を設ける気はなかった。自動車大手各社も対象とした。
2021年5月、業界団体である日本鉄鋼連盟の会長会見。ここで橋本はくさびを打ち込んだ。「個社としての話」と前置きしたうえで「(ひも付きは)国際的にも理不尽に安く、是正しないと安定供給に責任を持てなくなる」と発したのだ。

日本製鉄の転生 巨艦はいかに甦ったか


こうして日鉄は、製品の価格主導権を取り戻しました。

こうした一連の改革により、日鉄は鉄鋼市況が悪化している中でも確実に利益を生み出す企業へと変貌しました

事実、日鉄の収益性や財務体質は高炉企業*の中で最も良好となっています。

製鉄には高炉法と電炉法があり、一般的に高炉法の方が付加価値の高い鋼材を製造できる。日系高炉企業は日鉄、JFE、神戸製鋼所の3社。


*2024年度上期決算より作成
*1:自己資本÷総資産。高いほど財務健全
*2:有利子負債÷自己資本。低いほど財務健全


日鉄は、これからも鋼材需要増が見込まれるアメリカやインド、タイに投資し、ビジネスを伸ばそうとしています。

強靭な肉体に生まれ変わったからこそ、日鉄は新たに多大な借金を背負ってでもUSスチールの買収を仕掛けることができたのでしょう。

しかし、現在の株価指標では割安であり、PBRは0.6倍と1倍を大きく下回り、配当利回りは5%超えと高配当。

配当重視する私の投資戦略にも合致することから、長期保有するつもりで購入しました。

週足のチャートでは、下値を模索しつつも2900円台で反発しており、このあたりが下値の限界といったところでしょうか。
下げ止まりそうな現在は、なかなか良い買い場のように見えます。


日本製鉄(5410)の週足チャートと2025年1月16日終値


日本を代表して超大国を訴える


日鉄の強みは技術力にあります。
高品質鋼材を製造する能力は世界トップクラスであり、とりわけ自動車産業での需要が大きい分野です。

  • 軽い

  • 強い

  • 加工しやすい

という3拍子が求められる自動車用鋼材の分野で、日鉄は高い信頼を獲得しています。

近年は鉄鋼の最大生産国である中国の鋼材需要減により、行き場を失った中国製の汎用鉄鋼が世界中にはびこり、鋼材価格が低下しています。

しかし日鉄は、高付加価値製品に特化した戦略をとることで、薄利多売の競争を避け、レッドオーシャンでの戦いを回避しています。

特に、日系自動車メーカーがアメリカ市場に依存している現状を考えると、日鉄がアメリカ国内で高品質鋼材を生産できる基盤を築くことは、日本の競争力を守る上で極めて重要です。

日鉄によるUSスチール買収の狙いはまさにそこであり、今回のUSスチール買収計画は、単なる企業戦略にとどまらず、日本の産業、経済全体に影響を与える試みなのです。

今後日鉄は、USスチール買収に際し不当介入したとされるバイデン政権や、クリーブランド・クリフスCEO、USW(全米鉄鋼労働組合)会長を提訴する方針です。

結果を覆すことは難しいでしょうが、この訴訟は、米国に爪痕を残し、後に続く者への道を切り拓くことに意義があるように感じています。



クリーブランド・クリフスCEOの発言には、もはや失笑を禁じ得ません。



日鉄の狙いは米国でのビジネス伸長であり、そのために米国の雇用を維持し、経済や安全保障を強めることにコミットすると再三述べています。

そもそも日本にとっては、同盟国であるアメリカの安全保障を揺るがすことに、何らメリットはないはずです。その点、太平洋戦争と全く異なります。

日鉄によるUSスチールの買収は、決して真珠湾攻撃に値するものではなく、米鉄鋼業界における黒船襲来のようなものだと思いますが、クリフスCEOの表現を借りるのであれば、

いつまでも内向き主義を続けることが自国のためにならないことは、日本から学ばなかったのですか

ということではないでしょうか。


まあ確かに、今回のUSスチール買収の件は、もはや勝てない戦いなのかもしれません。

日鉄としては買収破棄期限を延ばし、トランプ政権に新たな判断を委ねることに一縷の望みを託すしかないのでしょう。

目先の経済的合理性を追求するならば、900億円の違約金を払って、さっさと損切りする方がよいかもしれません。


しかし、そこは日鉄。明治時代より国を背負っている気概がいまだ健在なのか。
アメリカにおもねる日本政府とは違い、日鉄は自由資本主義のルールを恣意的にゆがめる動きは訴訟を起こしてでもを正す姿勢を見せています。

なんだか半沢直樹みたいです。


時に自分を犠牲にしてでも社会全体の利益のために行動し、強大な相手に対してもナメられないよう果敢に食らいついていく。

そんな勇姿を示す日鉄を、私自身も身銭を切り、これからも応援します。


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