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オフブロードウェイ"Bedwetter"はしょうもなさ半分。でも、残りの半分でグッとくる。

オフブロードウェイAtlantic Theatre Companyの The Bedwetterを観てきました!

おねしょに悩む、9歳の女の子の物語を描いた、ミュージカルコメディ。平日夜にも関わらず満席でチケットは$130。場合によってはブロードウェイより高い。

このミュージカルのコンポーザーAdam Schlesingerは、制作の途中でまだ50代という若さでコロナにより死去。後述しますが、音楽がとても印象に残るミュージカルだったため、もうこの世に彼の音楽が生まれないと残念でなりません。また、彼が亡くなってしまった後も、公演まで漕ぎ着けてくれたこのカンパニーには尊敬と感謝を送りたいです。

物語は、1980年代のNew Hampshireが舞台。マンハッタンから家族と引っ越してきた9歳のAllyは、未だにおねしょしてしまうことに悩んでいます。転校先で友達を作るために不可欠な、お泊まり会や、自分の家への友達招待の中で、ある日おねしょ癖によって深い心の傷を負ってしまいます。いつも家族の中で1番明るかったAllyが暗くなっていくことで、徐々に、今まで問題を抱えていていた両親、祖母、Allyをうとましく思っていた姉のLauraに心境の変化が生まれます。

*脚本読まずに英語公演だけ見て話を追っているので、内容に多少齟齬があるかもしれません。

この作品の興味深かった点を3つご紹介したいと思います。

1. ユニークなオープニングナンバー

ミュージカルのオープニングナンバーはとても重要で、オープニングナンバーがよければ、そのミュージカルは成功に近いと言われます。なぜなら、オープニングナンバーは、このミュージカルがどんな環境設定で、主人公はどんな問題を持った人なのか、歌詞と音楽からお客さんに感じてもらう役割を担っているからです。つまり、お客さんがこの先1時間や2時間興味を持って観続けてくれるかはオープニングナンバーにかかっています。

成功したオープニングナンバーの例でよく上がるのが、"Ragtime"。Ragtimeは20世紀初頭のニューヨークを舞台に、郊外に住む上流階級の白人コミュニティー、黒人コミュニティ、移民のユダヤ人コミュニティが関わりあうことで起きる事件を描いたミュージカルですが、オープニングナンバーでは、この3つのグループそれぞれが、同じ土地でお互いを意識しつつも、決して自分の陣地に入り込まれないよう緊張感を持って暮らしていることが、音楽からも演出からも感じられます。

*参考Ragtime オープニング 

このように、オープニングナンバーはアンサンブル曲で、いろんなキャラクターたちが自分たちの状況を歌いながら、主人公が生きている環境、時代、問題を表現することが王道のパターンです。

Bedwetterが興味深かったのは、オープニングが主人公Allyのソロソングで始まることです。ミュージカルは、Allyが転校生としてクラスメイトの前で自己紹介するところから始まります。そして、その自己紹介が歌になっていて、彼女が今までどんな暮らしをしていたのか、家族構成や両親が離婚していること、そして彼女がとてもおしゃべりでユーモアな子であることがわかります。確かに、転校初日って自分のことを大勢に向かって説明しなければいけないし、転校の経験ある無しに関わらず、誰もが緊張する場であることは知っているので共感しやすく、オープニングナンバーとしてはユニークで賢い作り方!と感じました。ちなみに、このAllyどこかで見覚えあると思ったら、フルハウスのステファニーにキャラがそっくり。それもあってか、Allyは懐かしくてすぐに愛されキャラとして観客に受け入れられている印象がありました。

2. 主人公の姉役を演じるEmily Zimmermanの演技が素晴らしい

決して出番が多いわけではなく、確か歌も2曲くらいしか歌っていなかったのに抜群の存在感を出していたのがLaura役演じるEmily。この作品が、Off Broadway デビュー。いつも妹Allyに付き纏われて辟易している、典型的な長女の悩みを持つLaura。彼女が素晴らしかったのが、1幕で、学校で付き纏ってくるAllyを嫌って、「彼女なんて知り合いでもなんでもない」という歌を歌い、2幕でAllyが友人関係で落ち込み引きこもり状態になった時にその曲のリプリーズを歌うのですが、この歌い分けがものすごく上手なんです。ミュージカルの曲の大切なところは、歌うことで、歌詞の奥にあるキャラクターの心情をお客さんに感じさせること。例えば、「あなたなんて、大嫌い」という歌詞を歌っていても、聞いた人の心には「あぁこのキャラクター本当はこの人が大好きなんだ」と伝えることもできる。そのキャラクターの言葉と実際に心に届くメッセージのギャップに感動するんです。(私は。)Emilyは、1幕では妹に対するイラつきを出していたのに、2幕のリプリーズでは、ほとんど同じ歌詞とメロディラインなのに、妹のことを心配し愛していることがとても伝わってきました。その繊細な役作りがまだキャリア若いのにここまでできるなんて、役者の層の厚さにはいつも驚きます。

3. 2幕の盛り上がりが面白い

正直、1幕は主要キャラクター紹介と、物語が進まないコメディーシーンに時間をかけていて、あまり中身がなく、ややハズレな感じがありました。しかし、1幕の終わりで起こる事件と、その事件によるキャラクター達の心境変化が2幕では見ることができ、最後の"Bedwetter" という曲が、うまく物語を解決してバラバラだったキャラクターが1つにまとまる瞬間を描いていて満足感がありました。全部で約2時間、10分のインターミッションだったのですが、個人的には、1幕終わりで起きる事件をもっと物語の早いタイミングに持ってきて、1幕のみのミュージカルにした方がテンポの良い作品になるのではないかと感じました。と、言うはやすし、行うは難し、ですね。

残りの約1週間も満席御礼のようなので、ぜひRewriteして、アップデートされたバージョンをもう一度観たい作品です!

#舞台感想  #Bedwetter

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