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「自由に食べたい 自炊のはなし」

とある金曜日の夜。代々木上原にある人気店、按田餃子の按田優子さんと文筆家・服部みれいさんのトークがオンラインで配信されていた。一週間おつかれさまのビールを飲みながら聴きはじめたそのトークには途中、何度も膝を打つ場面があった。

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「自由に食べたい」というのは、一見わがままな響きがあるけれど、やりたい放題のアナーキーな食生活をしたい!ということではない。
トーク視聴後の私なりの解釈は、インスタ映え、栄養バランス、環境問題、貧困問題、など様々な「みんなの視線」が個人の食生活を監視しているなと感じる昨今、「私自身は何をどうやって食べたいか」についてもっと自由に(と同時に責任をもって)向き合っていいのでは? というメッセージだった。

序盤は、自炊は「自立」である、という話。これは、以前読んだ按田さんの本「たすかる料理」にも書いてあったことで、確かに、自分で自分を満たすことができる、というのは食欲に限らず幅広い意味で自立した状態だと思う。


ただ、「自立」=「自分でなんでもやる」ということではなく、自分のできる範囲のことには責任を持つ、ということらしい。
ここで、按田さんが「冷蔵庫はお母さんみたいな存在」と発言。
私たちは食材を買ってくると、冷蔵庫に入れる。いったん冷蔵庫に入れておけば大丈夫、と安心する。でも、往々にして冷蔵庫の奥の方からしなびた野菜や、賞味期限をとっくに過ぎたジャムが見つかる。そして「あ、ダメになっちゃった。」と思う。
按田さんは過去に自分の冷蔵庫から古びた食材が発掘された際、なんだか「私のせいじゃない」と思っているような気がしたらしい。
「なんでもとりあえず受け入れてくれる冷蔵庫は、やつあたりしても結局許してくれるお母さんみたいな存在で、このままじゃ自立できないなと思った。」
(ちなみに按田さんはこのあと、東日本大震災で停電を経験したこともあり、実際に冷蔵庫無生活を実践していた期間がある。(「冷蔵庫いらずのレシピ」

野菜を一から作ったり、家畜を育てたりすることは難しいけど、自分が手に入れた食材くらい、ちゃんと使い切るという責任は持っておきたい。


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話題は自炊から、料理をすることにハードルを感じている人や、しんどさを感じている人がいるという話へ。確かに、SNSを開けば華やかな手作りごはんの写真がたくさん出てきてプレッシャーだ、という話はよく聞く。
これに対する按田さんの考え方が素晴らしかった。

私の自炊は、個人的な神話を紡ぐようなもの。
誰も見ていない台所で、自分のためにごはんをこしらえる。毎回味が違っても、和洋混ざっていても、調理が途中でも、火が通って食べることができれば、自炊はそれでOK。
きらびやかな食卓や、お店のようにしびれるうまい一品を作る必要はない。

自分だけでなく、家族のためにごはんを作っている人も、家の外の視線を食卓に持ち込んで比較する必要はない。食べる側の人も、毎食味がバチッと決まっていてほしい、と思うんだったら自分で作ればいいし、そもそも毎度そんなに気合の入った献立を食べたいか、ということも改めて自問してみた方がいいかもしれない。

そうはいっても、この辺りの問題は、子どもがいる家庭や、食の志向が大きく異なる人と生活している人にとってはかなりシリアスな問題だろう、ということも想像がつく。
多くの人が気ままな自炊と自立を実現できる社会に一票…!

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話はさらに進んで、「何者かになりたい呪縛」の話へ。「個の時代」と言われ、国や組織に依存せず、個人で強く生きていくのだ!という風潮が高まっている今。「自分は何者かにならなければならない」という強迫観念めいたものが満ちているような気もする。

これはどんどんエスカレートしていくものだと思う。フォロワー100人いったら500人、500人いったら1000人…と言う風に、いつまでも満足できない。
なぜか。他人の軸で自分の価値を測ろうとしているからだ。
按田さんいわく、「何者かにならなくていい。だけど、若い頃は私もどうにかなりたくて必死だったし、多くの人が通る道なんだと思う。でもやっぱり、自分が紡ぐ神話を持てばいい。食に限らず、時間を忘れて没頭できるものを持つと、活力が湧いてくるから」と。

そのあとで、服部さんが神話といえば、と話していたのは星座の話。

星はただその場所にあるだけなのに、人間が勝手に星座という形に見立てた。だから個々人で自分のやっていることを、好き勝手に星座にしてしまっていい。自分の状況を他人と比較するのではなく、勝手に自分の星座を作って、勝手に神話にしてしまっていい。

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按田さんお得意の「チチャロン」というゆで豚の話から始まったはずトークイベントは、「自炊」を軸にいろんな方面へ話が広がり、最終的には星座にまでたどり着いた。(台所は宇宙…!)

「自分らしく生きよ」みたいな言葉は耳にタコやイカができるほどよく聞く。このトークイベントのあと、その”自分らしさ”という、曖昧模糊とした、はんぺんのようなものは、もしかしたら自炊によって輪郭が見えてくるのかも?と思った。


ちなみにこのイベントは服部さんの「好きに食べたい」という著作の刊行イベントだったらしい。早速注文してしまった。待ち遠しい。


トークは、下北沢の大好きな本屋さんB&Bのイベント ↓ ↓


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