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名前の文字数が多すぎて大変だった時の話

私がまだ小学生だった頃、地元の地区の子ども会リーダー研修に参加した。子ども会リーダーはその地区の大人がいつの間にか決めていて、ある日突然「ハイあなた今年のリーダーね」と宣告される。大人にとっては年に一度のイベント係くらいの軽さだろうが、子どもには「ハイあなた来月からインドに転勤ね」くらいの衝撃だ。

ではさっそく研修会に行ってきなさい、と命じられた私は、見知らぬ道を長いこと歩いて研修会場である大きな体育館にたどり着いた。そこにはすでに同い年くらいのやはり見知らぬ子ども達が何十人も集まっていて、体育館の真ん中で体育座りをしていた。その片隅にちょこんと座り、「何するのかなー」とボンヤリしていると、突然バタバタと激しい足音をさせて、謎のお兄さん2人が乱入してきた。このお兄さん達は研修講師として、地区のイベントで子ども向けレクリエーションを盛り上げる方法をリーダー達に教えてくれるとのことだった。

そこではいろんな盛り上げ方の指導を受けた。大きな声、笑顔、そして司会進行。肝心のゲームも3つくらい教えてもらった。どれもお金が一切かからず、身一つあればできそうなものだったと思う。その中に名前を使ったゲームがあった。

お名前ゲームは、まず自分の名前をひらがなにして、文字数が一緒の人を見つけてチームを作るところから始まる。例えば「タナカユウジ」なら6文字だ。私は大きな声で自分の名前の文字数を叫んで仲間を探した。周りでは6文字、7文字、8文字などのチームができあがっていったが、私はいくら探しても同じ文字数の人が見つからなかった。

何しろ私の当時の氏名は、合わせて9文字もあった。鬼龍院翔、伊集院光、爆笑問題と同じだ。3つ目は正確には違うが、とにかくその会場で一番長かった。

私が一人でオロオロしていると、お兄さんが助っ人に来てくれた。

「9文字の子!9文字の子はいないかなー?」

お兄さんの助太刀虚しく、私はまだゲームが始まってもいないのに不戦敗になりそうだった。すると、もう一人のお兄さんが女の子を連れて来た。その子は号泣しており、お兄さんも懸命に「ほら、仲間がいるよ!」と声をかけている。

「私、9文字もあるんだー。あなたの名前は?」

私は努めて明るく話しかけた。するとその子は嗚咽しながら答えた。

「モリ$%フェェ」

私はよく聞き取れなかったので、「えーと名前は?」と重ねて聞いた。するとその子はキレそうな声でまた答えた。

「だから、モリ#$=エエエエン!」

私は最初話が通じてないと焦ったが、お兄さんからこの子は名前の文字数が4文字だと知らされた。だとすると「森ユリ」とか「森マミ」とか。確かめたくても、これ以上聞いたら声を枯らして泣き叫びそうな様子なので、下の名前がわからないまま私と「森ちゃん」は「その他チーム」としてゲームに参加することになった。結局森ちゃんは最後まで泣いていて、そんな森ちゃんに気をつかい続けた私はその後何のゲームをしたかほとんど記憶に残らなかった。

身も心もヘトヘトになって家路につき、その一ヶ月後に地区の大人リーダーのおばさんの家でイベントの企画会議を開いた。私は立派な和室に通されて、お客様としてお茶をいただきながらおばさんとイベントのプログラムを作った。おばさんはとてもやさしくて、私を相棒として対等に接してくれたことを今でも覚えている。イベント主催者としての責任感が芽生えた私は、本番では子どもの「パン食い競走」と研修で教わったクイズゲームを無事にやり切った。お名前ゲームはやらなかった。

イベントは大成功だった。すべての仕事を終えた私は、パン食い競走で余ったジャムパンを一人で黙ってゆっくり食べた。おそらく私の人生で一番おいしいジャムパンだ。そして今でもジャムパンを見るたびに、森ちゃんを思い出す。
森ちゃん、いつかまた会えたらもいっぺん下の名前教えてね。

:D

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