おいしい! って叫びたい

小学生の好きな食べ物嫌いな食べ物を調べる課題があった。

今の小学生は好き嫌いがないと答える人が全体の半分で一番多い。すごいなぁ……。20代そこそこだが、好き嫌いはもちろんある。特に苦いものはダメで、ゴーヤが未だに食べられない。ただ、ゴーヤを口にしてから、ピーマンがマシな味に感じられるようになり食べられるようになった。

ゴーヤよりも苦いのは、アロエだ。最近あまり見なくなったアロエヨーグルトの、あのアロエ。おじいちゃんの家にいつもアロエヨーグルトが置いてあった。甘いものは好きなので、ヨーグルトも好きだ。大きいプレーンヨーグルトにオリゴ糖をしこたま入れて、ぐるぐるかき混ぜて飲んだり、朝も飲むヨーグルトで済ませたりするので、ヨーグルトには大変お世話になっている。とにかくおじいちゃんの家に行ってはアロエヨーグルトをもらっていた私は、おじいちゃんがアロエを育てていると聞いて見せてもらった。

トゲトゲした分厚い葉っぱが何本も伸びていて、まだ小学生くらいだったので、大きさも自分の腰を越えるくらいまであり、触るのがなんだか怖かった。すると、おじいちゃんがそのアロエをパキッと折り、折った面を私に向けた。

「舐めてみるか?」

私はアロエヨーグルトの味を想像しながら舐めた。

ペロリ。

舐めた瞬間「ヤバい」と察した。当時そんな言葉は知らなかったけれど、命の危機を感じる苦さだった。私はギャンギャン泣いた。すぐにおばあちゃんが飛んできて、私は洗面所に連れて行かれ、たくさんうがいをした。おじいちゃんはおばあちゃんからしこたま怒られた。その日の夜ご飯は食べられなかったと思う。すごく落ち込んだ。でも、アロエヨーグルトは食べた。アロエヨーグルトに罪はない。相変わらずおいしかった。

それ以降、苦いものは元々苦手だったが、アロエに比べればまぁ……と、少しずつ食べてみるようになった。最悪の経験というのは、そこそこ悪い経験を中和する作用がある。

食べ物に関して、私が全然できず、一部の人だけが持つ特殊能力だと思っているものがある。料理が出来ることと、今何が食べたいか具体的な名前を言えること。料理は「やれば出来る」というリアクションを多くいただくのでそうなのだろう。私は料理をしない。だから上達しない、それはそうだ。しかし、いま食べたいモノを名指しできるというのは結構すごいと思う。

「今私、パスタの気分」とか言える人はすごい。パスタの気分ってなんだ。丼が食べたいとか、肉が食べたいとか、それくらいでもすごいのに、どこどこの店の○○とメニューまで名指しする人もいる。食べたいものが浮かぶのだろうか。VRみたいに、特殊なゴーグルをはめなくても、目の前にありありと見えているのかもしれない。「食べたいもの……美味しいものかなぁ……」と言って白けた目を向けられる事もないのだろう。

だから、「たべたいものは?」と聞かれたときは、結構頑張って名前を挙げる。肉! とか、魚かなぁくらいにジャンルを絞ることもあるし。軽く食べたいとか、がっつりいきたいとか、量を伝えることもある。そういう会話を繰り返すうちに、やっと、何食べたいかを聞いてきた人のしたい会話というものが、ぼんやりと、輪郭だけつかめてきた。

何度かそういうことを繰り返して思ったのは、私は自分が食べるより、食べている人を見ているほうが好きだ。きっと、味覚はあまり発達していないのかもしれない。15分~30分で大体の食事は終わる。だから、私は食べ終わったあと、ほかの人が食べているのをしばらく眺めている。急かすのも悪いので、食べているところの写真を撮ったりする。きっと「おいしい」というよりも「おいしそうだなぁ」と思っているほうが好きなのだ。

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キッチンタイマー
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