思わず立ち止まるメロディ［曲紹介エッセイ］

エッセイを書くとき、電車に乗っているとき、勉強中。いろいろな場面で音楽を聴く。

気分が乗っているときは筆が進む。だんだん目の前のことに没頭してくると「うるさいな」と、自分で聞いているくせに失礼な文句を言ってヘッドホンを外してしまうこともある。

元気が出る曲や、切なくなる曲、ランダムに流れてくる音楽を聴いている。曲に気分を左右されるつもりはないのだが、落ち込んでいるときは悲しい曲を聴く方が何となく元気がでてくるような気がして不思議だ。今の気分と共鳴して、心の動きが増幅するのだろうか。切なくてたまらない曲を聴いているときに、言いようのないエネルギーが生まれて、積み重なっていためんどくさい仕事を全て片づけてしまうこともある。

その日、私はライブDVDというものを初めて見ていた。Kさんという営業が天才的にうまい友人がいる。Kさんはことあるごとに私にいろいろなものを勧めてきては、私はその虜になっていた。今回のライブDVDもそのKさんから布教されたものだ。鷲崎健という、ラジオパーソナリティがアルバムを出したということで、ワンマンライブを行った。その映像を収録したものである。

いよいよ、仮想的ではあるが、ライブまで手を出してしまったな。と思いながら、勉強の片手間に再生をする。知っている曲が最初に出てくるとやはり気分が高まる。2曲目にはすでに歌詞を間違えているがご愛嬌。しかも、曲の間のトークが巧みで面白い。

私は黙々と手を動かしながら、チラチラとDVDプレーヤーから流れる映像を見ていた。

曲は次々と変わる。愛をうたった歌。バーベキューで人の奥さんをノリノリで口説いてる歌。女の子の髪のにおいをかいでいるうた。

次第に手元に集中していて、ライブ映像が疎かになっていたとき。

「♪～僕を待ちながらブラーックジャック読む！」

サビのワンフレーズが飛び込んできた。ガバッと顔を上げる。

「なんの歌！？」

しかし、すでに間奏。待って待って、そんなサビある？　ブラックジャックってあれ？　手塚治虫の？　サビに持ってくるほど大事な話なの？？

その曲が「バラバラ~Balance 2 Variance~ 」だった。すでにKさんの営業によってアルバム一式が投入されているウォークマンを手に取り、歌詞を調べ、見ながら聴いた。

……良い曲じゃん。

noteは動画も音声も貼れる便利な環境ではあるのだが、エッセイなのであえて文中には曲を張らずにおきたい。「バラバラ~Balance 2 Variance~」は、なにもかもバラバラな恋人２人の日常を歌っている。お互いの趣味も、好みも、歩幅も、マンガを読む速度も違う、そんな２人が「いつもなんかずれちゃうね」という思いさえ胸に秘めたまま、お互いに違う部分を感じながらも口に出さない。微妙なバランスでつき合っていく姿をうたった歌だ。

とにかく、私にとっては理想の関係を描いていた。お互いに合わせようとするけど、やっぱりあわなくて、それを笑いあうような関係でいられる。恋人だけでなく、友人たちともそうしていたい。

Kさんに、この曲がよくて。と伝えると曲の紹介ページのURLが貼り付けられた。ブラックジャックは曲にするにあたって版元の許可をとったのか……そうなのか……。と、まじまじとページを見てふと我に返る。

あっ、しまった。

これ、営業されるやつだ。

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今回紹介した曲

タイトル:バラバラ~Balance 2 Variance~
アルバム:「I Love You」のある世界
リリース:2012年