2022.04.05 ミナトゴハン×魚の旅Vol.4 神奈川県横須賀市 佐島漁港 仲買 マルセ鮮魚
Vol.1〜3は漁師さんの仕事について教えていただいた。
今回訪れたのは魚を買う側の仲買さん。
横須賀市大楠(おおぐす)漁協佐島支所で仲買人をしている”マルセ鮮魚”福本さん親子に漁協での仕事の様子を見せていただいた。
マルセ鮮魚について
福本忠(ただし)さん、真昭(まさあき)さん親子は佐島で3代続く”マルセ鮮魚”を営む仲買人。
店舗は持たず、平日は軽トラに朝漁協で仕入れた新鮮な魚を積んで三浦半島を回り、土日は港近くにある浄楽寺の境内で朝市を開く。息子の真昭さんは主に飲食店に卸している。
親子で仕事を営む2人は“おとうさん“と“まーちゃん“と呼ばれ親しまれている。
仲買とは
仲買とひとことで言っても多種多様な職業があると思うが、今回のお話は漁港にあがった魚を漁協から買い付ける権利(入札権)を持っている仲買人。
入札権を持つのは小売業、飲食業、卸売業、加工業など業種は様々。
佐島で入札権を持っていても、他の漁港で買い付をすることはできない。
なので他の漁港の魚が欲しい時は、そこの漁協の入札権を持つ仲買人を通して買うことになる。
ちなみに豊洲などの中央卸売市場で店を構えている“仲卸“さんは(入札権を持っていて漁協に買い付けに行っている場合を除く)仲買人が市場に届けた魚を仕入れ卸売りしている。
佐島漁港と漁協
佐島漁港は相模湾に面する三浦半島の葉山と三崎の中間に位置する西暦800年代から続く歴史ある港町。目と鼻の先には佐島マリーナホテルがありリゾート地としても知られている。
黒潮がぶつかる温暖な気候に加え、目の前の小田和湾には三浦半島の大楠山からミネラル豊富な川の水が海に流れ込む。
伊勢エビ、サザエなどの貝類、わかめやひじきなどの海藻が多く生息し、それをエサにする良質なタコがよく獲れることから“佐島の地ダコ“と呼ばれ西の明石、東の佐島と呼ばれるほどその美味しさに定評がある。
湾内には漁船が点々と停泊し、漁港脇の海岸には特産のワカメを干す台が並びゆったりとした空気が流れている。
そんな佐島の魚を扱うのが横須賀市大楠漁港協動組合佐島支所(旧 大楠漁業協同組合地方卸売市場)。
漁船が帰ってくると漁協の職員さんが手早く重さを測り種類や大きさ別に仕分けして、活け(生きている魚)は水槽に、野締め(船の上で氷水で締めたもの)は氷水の中に並べ入札を行う。
“セリ“と”入札“
魚の売り買い、というと“セリ“をイメージするが佐島漁協は“入札“。
(vol.3の銚子釣りきんめも“入札“)
簡単に言うと、魚の希望価格と量を仲買人が漁協に提出し、最も高い値段をつけた人がその魚を買えるという方式。一部を除き、ほとんどの魚は入札を行なう。
*3 セリと入札についての詳しいお話は真昭さんの解説をご覧ください。
YouTube
仲買流イワシの見分け方教えます 【仲買マルセ鮮魚さんのお仕事風景2】
https://youtu.be/QQA8FNM8Y9s
マルセ鮮魚 “おとうさん“の仕事
前置きが長くなったが、これからが仲買人の福本さん親子のお仕事の話。
おとうさんのお客さんは主に個人の方。神奈川県では唯一の行商人として知られている。
以前は亡き奥様(*1)と一緒に回っていたが、今は1人で仕事をこなす。
午前4時には漁協に入り、午前中に行われる入札までに氷の準備をする。魚と同じくらいの量が必要なのでかなりの量が必要。
午前7時前から漁船が戻り、徐々に魚が並び始めると魚種ごとに入札にかける価格を決めていく。
佐島漁港は定置網船2隻がメイン。他にいくつもの小型船が入り季節ごとに多種の魚、貝類、海藻が水揚げされる。
素人目にはたくさんの魚が並んでいるように見えるが、近年目に見えて魚の量も種類も減ってきているという。その年により変わるが、人気の地ダコも今年はほとんど水揚げがないそう。(2022.04.03現在)
職員さんの鐘の音を合図に入札の結果(鐘は始まりと終わりに鳴る。)が中央の黒板に書き出されると、落札した魚を運び箱詰めしていく。入札の回数は魚の量により日によって変わる。
仕入れに来る方々は皆顔なじみ。
ほら貝の殻は硬いけど身は茹でると柔らかくて美味しいんだよ。と、おとうさんが教えてくれるとその脇で、ぬめりをとって生で食べるのがいちばんというお馴染みさん。
ここらへんじゃあ“ケッポ(足で蹴る)“って呼んで誰も食べないよ〜、と仲買人で地元の飲食店のオーナーさん。
ほら貝は地元の方でも好みが分かれるよう。
漁協は基本的に週2回休みになるが、おとうさんは休みなく魚を届けに走る。お客さんの好みを把握しているので、入荷する魚の種類によっては回るルートを変える事もあるという。
マルセ鮮魚 “まーちゃん“の仕事
息子の真昭さんのお客さんは主にオーナーシェフ。その日揚がった魚の状態を見てお客さんと電話で相談しながら入札する魚を決めていく。
直接仕入れにくるお客さんとはその場で魚を見ながら相談する。
海の中は風、潮の流れ、天気などさまざまな要因で時間ごとに変わっていき、毎日同じ魚がとれる訳ではない。
入札しても落ちなかったり同じ魚が次の日に3倍の価格になる事も当たり前の事。
そんな時、手に入らなかった魚の代わりにシェフのメニューに合わせ別の提案をするのも大切な仕事。
買い付けた魚は料理する人がさばくときにいちばん扱いやすい状態になるよう、入札の合間に活け締めにしていく。
軽トラに積んで出発
入札の合間に電話、下処理、箱詰めなどが絶え間なく続く作業が落ち着いてくるのは午前11時過ぎ。
魚をトラックに詰め終わったら、それぞれのお客さんの所へ出発する。
配達や販売が終えるとか漁協に戻り、事務処理をして1日の仕事は終了。
漁から帰る船が多い時は15:00頃にも入札が行われる。
マルセ鮮魚 週末の仕事
週末の2日間は朝市を開く。
土曜日は平日よりも1時間早い午前3時から氷の準備。
午前6時半分過ぎに設営場所へ向かい、到着したら他の出店者と一緒にテントの設営をする。
この日はご近所の農家さん、ケーキ屋さん、三崎からまぐろ屋さん、まぐろトロちまき屋さんも出店。(日によって一部メンバーが変わる。)
朝市では生きたままの伊勢えび、サザエ、イカなどが並ぶとあって地元の家族連れ、神奈川以外のナンバーの車、飲食店らしき人までなど様々な人が立ち寄っていく。
山盛りあったサザエがほとんどなくなる15:00頃には閉店。
真昭さんは次の日は飲食店に魚を卸す業務のため朝市は土曜日のみ。
日曜日の朝、おとうさんは魚を仕入れて再び朝市。
この日は土曜日と同じくちまき屋さん、農家さん、そして日曜のみのケーキ屋さんが出店。
日曜日のお店が終わるとテントの片付け。
最後に軽トラに積んだ荷物を漁港でおろして終了。
最後に
1週間のうち漁協で3日間、朝市で1日の計4日間。ほんの一部ではあるものの仲買人の仕事を見せていただき天然の魚を扱う事の大変さを改めて感じた。
昨日は少なかった魚が今日になったら大漁だったり、逆に当然あると思っていたものがなかったり。
長年の経験である程度予想がつくとはいえ朝獲れたばかりの魚の量と質を瞬時に見極め価格を予想するのは大変な作業。
魚がたくさん獲れると単価が大幅に下がるので商売としては成り立たないが、漁師さんの仕事が無駄にならないよう仲買人は漁協から全ての魚を買い取るのが基本だそう(全国どこの漁協も同様)。
福本さん親子の元には港に通うシェフ、お馴染みさん、朝市に来る常連さん、初めて立ち寄ったお客さん、と幅広い人達が魚を買いに来るが、プロ、アマ問わず誰に対しても隔たりなく、おいしく魚を食べて欲しいという気持ちが見ているこちら側にも伝わってくる。
我々は漁師さんが丁寧に獲って来てくれたおいしい魚をお客様に届けているだけ、という言葉とは裏腹に、とても丁寧な仕事だった。
*1 福本さんの奥様のレシピは“魚行商のおかみさんレシピ“としてアプリになっている。佐島の四季の魚と食べ方がひと目でわかる。
*2 浄楽寺朝市
平安後期〜鎌倉時代初期に開創された由緒あるお寺。JR逗子駅からバスで20分(浄楽寺 バス停からすぐ)ほどの場所で土日の朝8:00頃から開催されている。
お寺の参拝は予約制。
*3 YouTube
漁港、朝市での仕事風景や本文で書き切れなかったことをまとめたのでぜひご覧ください。
・1日目 福本さん親子と仲良しのワカメ漁師“としさん“との話など。
いつも食べてる魚はどうやって手元に届くの⁉︎ 【仲買マルセ鮮魚さんのお仕事風景1】
https://youtu.be/9RaeOud9Lbs
・2日目 真昭さん流イワシの目利き、入札とセリの違いの話などの話など。
仲買流イワシの見分け方教えます 【仲買マルセ鮮魚さんのお仕事風景2】
https://youtu.be/QQA8FNM8Y9s
3日目 雨の中の仕事風景、漁港付近の風景と佐島の地魚が食べられるお店など。
近日公開予定。
4日目 朝市の準備から片付けまでの様子。
近日公開予定。